「……っていうわけだから今日は夕飯は友達ん家で食べるからいいよ。帰りも遅くなると思うけど心配しなくていいから」
『それなら母さんからその友達のご両親に電話した方がいいんじゃない?』
「いや、それは大丈夫だ。わけあって親とは一緒に暮らしてないらしいから」
『じゃあ高校生だけで夜遅くまでいるの? 大丈夫?』
「別に平気だってば。遅くても十時までには帰るから。よろしく」
『気を付けなさいね』
「はいよ」
俺は電話を切った。

「誰なん? 今の相手」
「母さんです。夕飯いらないって伝えときました」
「そうなんや。仲ええんやね」
夜六時を過ぎて真っ暗になった校庭を土屋さんと歩く。

「すいません、俺のせいで巻き込む形になってしまって……」
正確には俺のせいとも言い切れないのだが一応謝ってしまう。これも日本人の性か。

「ええよ。さくらちゃんたちの家に行ってみたかったんはほんまやし、なんや夜に友達のうちに集まるって楽しそうやもん」
カバンを後ろ手に持って体を揺らす土屋さん。
友達か……。土屋さんは部員たちのことをそう思っているのか。
俺の中ではさくらたちは文芸部の仲間だが友達という感じではない。そもそも学年も違うしな。

「あ、真柴くん、ちょっとごめんやで」
言うなり土屋さんは俺の前髪を触った。
「ほこりがついてたで、ほら」
「ああ、すいません」
土屋さんはふぅっと息を吹きほこりを飛ばす。

「ちょっと良太! 何みどりといちゃついてんのよ!」
後ろからさくらの声が聞こえた。校舎に反射して校庭に響く。
振り返るとさくらが駆け足でこっちに向かってきていた。

「姉さん、声が大きいよっ」
その後ろには流星と高橋もいる。

いつも通り部室の鍵を職員室に返しに行こうとした流星に「たまにはじゃんけんで決めましょう」と提案したさくらは言い出しっぺのくせに速攻で負けたのだが、負けず嫌いなさくらは「良太が後出しだったわっ」といちゃもんをつけ強引にやり直させ、結果負けた高橋が職員室に鍵を返しに行くことになったのだ。

「なんであたしたちを待ってないのよっ」
俺たちに追いついたさくらが息を切らしながら言う。

「一年の下駄箱は遠いから待ってるのが面倒だったんだよ。追いついたんだからいいだろ」
「ごめんな、さくらちゃん。真柴くん一人占めしてもうて」
「べっ、別にそんなこと言ってるんじゃないわよっ、ふんっ」
さすが土屋さん。一発でさくらを黙らせた。

「ではこれから僕と真柴先輩で夕飯の材料を買って帰るのでみなさんは姉さんと先に家に向かっていてください」
合流した流星が口を開く。

「なんやうちらだけ悪いな~」
「いいのよみどり。男どもはこういう時に利用しないとね」
「……ありがとう」
女性陣が三者三様の反応をみせる。

「さっさとしなさいよね。寄り道なんかするんじゃないわよ、いいわねっ」
「待っとるで~」
「……お先に」
さくらは俺を指差し、土屋さんは大きく手を振り、高橋は小さく手を上げて去っていった。

「姉さんもああ言っているので早速行きましょうか」
「そうだな」
これ以上あいつの小言はごめんだからな。
俺と流星は三人の後ろ姿を確認すると近くのスーパーへと足を運ぶのだった。