放課後、文芸部の部室にて、
「頼むから夜中に電話かけてくるのはやめてくれ」
俺はさくらに懇願した。

「なんでよ?」
けろっとした顔で返すさくら。
もともと遠視でくまが出来やすい体質の俺は寝不足で目の下に大きなくまを作っていた。

「お前のせいで寝不足なんだよ。授業中も居眠りして先生に怒られるし、走れ雷撃丸もゾルーンワークスも見れないんだからな」
「何よそれ?」
「深夜アニメだよっ」
お前は知らないだろうが俺は毎週楽しみにしているんだ。

「だって良太が小説を書く手伝いをしてくれるって言ったんでしょ」
「お前なぁ……」
それは流星が言ったセリフであって俺は一言も発してはいない。
こいつは自分の都合のいいように記憶を書き換えてやがる。

「まあまあ姉さん落ち着いて、真柴先輩も」
ここで流星が俺とさくらの間に割って入ってきた。

「姉さん、さすがに夜中に電話するのはよくないと思うよ」
珍しく姉であるさくらに物申す流星。
いいぞ、もっと言ってやれ。

「真柴先輩のご家族にも迷惑だろうし」
そうだそうだ。

「だから僕たちの家に真柴先輩を招いて姉さんはそこで小説を書けばいいんじゃないかな。そうすれば真柴先輩にもすぐ感想を聞けるし」
と流星は言う。
え……何言い出すんだこいつ。

「ふーん、それもそうね。あたしもいちいち良太に電話するのは面倒だと思っていたのよね」
さくらもその気になっている。

「おい、ちょっと待て。俺はそんなに暇じゃないんだ、部活外の時間までお前らにかまってられるか」
「そんなこと言わずに姉さんを手伝ってあげてくださいよ、真柴先輩」
「あんたは文芸部の部員なんだからあたしに協力する義務があるのよっ」
俺の眼前にびしっと人差し指を突き出すさくら。
あっぶね、目に入ったらどうしてくれるんだ。

「なんで俺だけなんだよ。それなら土屋さんも高橋も文芸部員だろ」
死なばもろとも土屋さんたちには悪いが名前をあげさせてもらう。
俺だけ天馬姉弟の毒牙にかかるのは理不尽だからな。

「何言ってるのよ、みどりは三年生でしょ。受験勉強の邪魔は出来ないわ」
こういう時だけ常識人が顔を出す。

「じゃあ高橋はどうなんだ。俺と同じ二年だぞ」
「二年生だって受験勉強はするでしょ。アニメだの見て遊んでるのはあんたくらいよ」
「くっ……とにかくだ、俺は土屋さんたちも参加しないなら拒否権を行使する」
「あんたねぇ、わがまま言うんじゃないわよ良太」
どっちがだ。

すると、
「うちは別にええで。受験勉強にも息抜きは必要やし、さくらちゃんたちの家にも行ってみたかったしな~」
土屋さんはのほほんとした顔で言う。

そして最後の砦だった高橋までもが、
「……あたしも構わない」
と言い出した。

これでは俺の状況は何一つ変わらないではないか。

「じゃあ今日から小説が書き終わるまであたしたちの家でプチ合宿ねっ」
「そういうことなら夕飯の材料は僕と真柴先輩で買い出ししてから帰りますよ」
「はあっ?」
「なんや楽しそうやな~」
「……プチ合宿」
口々に好き勝手なことを言う部員たち。
……もう好きにしてくれ。