流星にもらった地図を頼りにさくらがいるであろうカラオケ店をみつけた。
そこに入ると店員さんにさくらの特徴を伝えて部屋番号を訊き出す。

「102か……」

さすが目立つ容姿をしているだけあって店員さんに長身で美人の女子高生と言ったらすぐに伝わった。

「102、102……お、あった。ここだ」

ドアの窓から部屋の中を覗くとさくらが大盛りのフライドポテトを手で鷲掴みにしながら口に運んでいた。
流星の言った通りやけ食いしているようだ。

俺は、
「おい、さくら。心配させんな」
ドアを思いきり開けてやった。

「っ……!?」
俺を見てさくらの手が止まる。

「な、何よっ。なんの用なのっ!」
手をぱんぱんと払いながらさくらが俺を睨みつけてくる。

「流星からお前が家出したって聞いたから連れ戻しに来た」
「あのお節介……余計なことを」
「ほら、流星が心配してるから帰るぞ」
「嫌よっ。大体なんで良太が来るのよ! あたしはあんたに対して怒ってるんだからねっ!」
腕を組んでそっぽを向くさくら。

はぁ~、仕方ない。
「それに関しては俺が全面的に悪かった。謝るよ、この通りだ」
後輩の女子に対して頭を下げることになるとはな。

「……本当に悪いと思ってる?」
「思ってるって」
「……」
さくらは鋭い目つきで俺の全身をつま先から頭のてっぺんまで隈なく見てくる。
それで一体何がわかるんだ?

「わかったわ。特別に許してあげる」
そう言うとすっと立ち上がり俺の肩にわざとぶつかるようにして部屋を出ていく。

「おい、カバン忘れてるぞ」
さくらの背中に言葉を投げかけるが、
「気付いたならあんたが持ってきなさいよ」
とさくらは振り向きもせずにのたまう。
俺は家来か。

カラオケ店を出てもなおさくらのカバンを持ちながらさくらのあとをついて歩く俺。
許したと言ったわりにはいつもの饒舌さが嘘のように何も話しかけてはこない。
そしてそのままさくらたちのマンションの前に着いてしまった。

「ほらこれ」
俺はカバンを手渡す。
「……」
無言で受け取るさくら。
こいつやっぱりまだ怒っているんじゃないだろうか。

「なあ、お前の超能力だけどさ……」
「……何よ」
やっと口を開いた。

「お前はどうしたいんだ?」
「わからないわよそんなの。みどりは人助けに使えって言うし、美帆は超能力は使うなって言うし、流星は見世物にするなって言うし……」

約束した手前土屋さんには悪いが、
「無理に使おうとする必要はないんじゃないのか。お前は超能力があろうがなかろうが天馬さくらだろ。俺はお前が超能力を使えるから文芸部に入ったわけじゃないぞ」
ちょっとキザったらしいことを言ってしまった。

すると、
「……はんっ。何偉そうに言ってるのよ、良太のくせに」
さくらは俺の意見を一蹴してくるりと後ろを向いた。

そして自動ドアを通過しマンションのエントランスに入っていって一言。

「……また明日ね」

俺に聞こえるか聞こえないかくらいの声量でつぶやくと同時にエントランスの自動ドアが閉まりさくらは去っていった。