それから部活中も何度か席を外し電話をかけてみたのだがさくらが出る気配はまるでない。
折り返しの電話ももちろんない。

「大丈夫ですよ。きっと家で寝ているんだと思います」
と流星が言う。

「そうか? それならいいが」
というかよくよく考えるとなぜ俺が後輩の女子生徒の機嫌をうかがわないといけないんだ。
そう思ったら面倒くさくなってきたぞ。

「そろそろ六時やし今日の部活はこのへんにしよか」
土屋さんが口にすると各自教科書や文庫本をカバンの中にしまい込み部室を出ていく。
俺もみんなにならって部室を出た。

部室の鍵は一年である流星の担当なのでみんなが出た後に部室の鍵を閉める。
それを確認して部長の土屋さんが、
「ほないこか」
先頭を歩き出した。

旧部室棟から渡り廊下までを四人で談笑しながら進み……とは言っても高橋は終始無言だったのだが……校舎に入ったところで、
「鍵は僕が職員室に持っていくのでみなさんは先に帰ってください」
と流星が言う。

「いつもありがとうな~。それじゃあまた明日な」
「……さようなら」
土屋さんと高橋は俺と流星に手を振るとそれぞれ三年と二年の下駄箱に向かった。

俺も帰るか……。
流星に「悪い。俺も先帰るな」と軽く手を上げ高橋のあとを追った。
同じ二年だから下駄箱も同じ場所にあるのだ。

「おーい高橋待ってくれ、途中まで一緒に帰ろう」
高橋の背中に声をかけると高橋はその場にぴたっと立ち止まった。
そしておれが隣に追いつくとまた歩き出した。

廊下を歩きながら、
「なあ、もう一回だけ超能力を見せてくれないか?」
高橋を見下ろして言う。
「……駄目」
「世界にひずみが出るからか?」
「……そう」
カロリーをほとんど消費せず返答する。

「それって具体的にどうなるんだ? よくわからないんだが」
「……詳しくは言えない」
そう言ったっきり高橋は何を質問してもうんともすんとも言わなくなってしまった。
何かまずいことでも訊いてしまったのだろうか。

階段を下り二年の下駄箱に着くと高橋は淡々と上靴を脱ぐ。
そして運動靴に履き替えると俺をじっとみつめてきた。どうやら俺が靴を履き替えるのを待ってくれているらしい。
やっぱり変わった奴だ。

高橋は自転車通学だったようで駐輪場のそばまで来ると「……じゃあ」とだけつぶやきヘルメットを被った。

「ああ、また明日な」
俺は高橋と別れ校門を出た。

暗い夜道を一人歩く。六時を過ぎると外はもう真っ暗だ。
「土屋さん一人で大丈夫かな……高橋もだけど」
可愛らしい先輩のことが頭をよぎった。

変質者から見たら土屋さんは恰好の的なんじゃないだろうか……。
いや、土屋さんにも高橋にも超能力があるんだったっけ。
例え変質者が現れても浮かしたり燃やしたり出来るのかもな。

そんなことを考えているとポケットの中のスマホが鳴った。
やっとさくらから折り返しの電話がかかってきた。
そう思い俺は急いでスマホを取り出すが画面に出ていたのは天馬さくらではなく天馬流星の文字。

さっき別れたばかりだろ。
何を話すことがあるんだ?

「もしもし、どうした? 流星」

『もしもし真柴先輩ですか? どうやら姉さんが家出したみたいです』