俺の初めての文芸部での活動はさくらの超能力をどう有意義に使うかを話し合うことだった。
もちろん結論は出ることもなくそのせいで結局宿題は部活の時間内には片付かず俺は家に持ち帰る羽目になった。

自宅の前まで来ると部屋の中に明かりがついている。

もう母さんは帰ってきているのか……。

俺は「ただいまー」と玄関のドアを開ける。
返事がないので中まで入っていくと母さんはキッチンに立って料理をしていた。

「あら、おかえり良太。遅かったのね」
「ああ。部活に入ったからな。これからは多分毎日これくらいになると思う」
「そうなの。だったら母さんももっと料理勉強して毎日夕飯作ろうかしら。母さん部署移ったから五時には帰れるようになったのよ」
と言う。

うちは母子家庭だが母さんは外資系の大企業に勤めているので生活に不自由はしていない。
ただその代わり帰りがいつも六時を過ぎていたので夕飯は弁当で済ますことが多かった。

「無理しなくていいよ。俺弁当とかピザとか好きだから」
「でもお昼もパンでしょ。朝もパンだし夕飯くらいは手料理がいいでしょ」
「うーん。じゃあ無理しない程度でいいから頼むよ」
「わかったわ」
母さんはテーブルに皿を並べていく。

「あっそうだ。パンで思い出した」
俺はカバンからカレーパンの入った袋を取り出す。

「なんなのそれ?」
「購買のカレーパンだよ。母さん食べてみたいって言ってただろ」
「あら本当!? ありがとう良太」
そう言いながらハグをしてくる母さん。
恥ずかしいから家の中はともかく外では絶対にやってほしくはない。

俺は着替えのために一旦自室に向かった。

部屋に入るとカバンをベッドの上に放り投げスマホを確認。
すると土屋さんから着信が入っていた。

「あれ、土屋さんからだ……」

明日も会えるのに部長からの電話。
急用だろうか。一応文芸部のみんなと連絡先を交換しておいてよかったな。

俺は土屋さんに折り返し電話をかけてみた。


『あっ真柴くん』
電話口に土屋さんが出る。

「俺、電話もらいましたよね。何か用ですか?」
『ごめんな、真柴くんに電話させてもうて』
「いえ、別に大丈夫ですけど」
『今日ちょっとうち熱なってもうて真柴くんに失礼なこと言ったんちゃうかなぁって気になって……』
超能力会議の時のことだな。

「全然そんなことないですよ。土屋さんは何も失礼なことなんて言ってませんよ」
『ほんま? はぁよかった~』
安堵のため息がもれてくる。

『真柴くん、うちのこと変に思うてたらどないしようって不安やったんや』
「はぁそうですか」
さくらが超能力者だと本気で信じている点ではおかしいとは思っているが、それ以外ではごく普通の女子高生だ。

「良太ー、ご飯よー!」
と母さんの大きな声。

それが土屋さんにも聞こえたらしく、
『ふふっ、あ、ごめんな、じゃあそろそろ切るわ。ありがとうな真柴くん』
「あっいえ……」
『また明日な~』
早々に会話を切り上げた。

俺はスマホをベッドの上に置くと部屋着に着替えてから下へと向かった。
そして夕飯を食べ終えると俺は風呂が沸くまでの間リビングでくつろいでいた。

「文芸部はどうだったの?」
洗濯物を畳みながら母さんが訊いてくる。

「うん。まあまあ」
「まあまあって何よ? 部の人たちはよくしてくれた?」
答えに困る質問だ。
基本よくしてくれてはいるが一人とんでもない後輩がいるんだ。
そいつは俺のことを呼び捨てにしたりタメ口で話してくるんだ。
しかも自分のことを超能力者だと言ってきかないんだ。
……なんてことは口が裂けても言えない。いらぬ心配をさせるだけだ。

俺は意外と親孝行したいタイプなのだ。
だから「ああ、みんなよくしてくれるよ」と言っておいた。