職員室へと向かう廊下で俺は流星に話しかけた。

「お前、いつもこうやってさくらのフォローしてやってるのか?」
「姉さんは誤解されやすい性格ですからね。僕が手助けしてやらないと駄目なんですよ」
と流星は言う。

誤解ねぇ……。
こいつに友達がいないのはさくらのせいなんじゃないだろうか。
隣を歩く流星を見て思う。


「真柴先輩、お腹すきませんか?」
唐突に流星が俺を見上げ言った。

「いや、全然」
昼飯を食べ終えてからまだ三時間くらいしか経っていないからすいてはいない。
だが流星は出っ張った腹をさすりながら、
「僕今日のお昼食べ損ねちゃって、部室に戻る前に購買に寄ってもいいですか?」
と訊いてくる。

「ああ、別にいいけど……購買なんてまだやってるのか? もう四時だぞ」
「大丈夫です。うちの購買は放課後も開いていますから」
「へー」
知らなかった。
だったら俺も母さん用にカレーパンを買っておくか。一度食べてみたいと言っていたからな。


職員室に着くと「失礼します」と慣れた様子で入っていく流星。
その後ろを「失礼します」と俺はついて歩く。

「教頭先生、文芸部の部費をもらいたいのですが」
流星は近くに座っていた頭が禿げ上がった男の先生に話しかけた。
教頭先生らしいな。

「うん? おお、天馬弟か、ちょっと待ってろ……」
そう言って教頭先生は机の一番大きな引き出しを開けると中をまさぐる。

「お前たち部に昇格したんだったな、おめでとう」
「ありがとうございます。こちらの真柴先輩のおかげなんです」
「そうか。文芸部をしっかり見守ってくれよ真柴」
見上げながら俺の腕をばしっと強めに叩く教頭先生。
「はぁ」と俺は返しておく。

「ほら、これが文芸部の部費だ。大事に使うんだぞ」
「はい。ありがとうございます。では失礼します」
「どうも」
俺たちは部費を受け取ると教頭先生に礼を言い職員室を出た。

今度は購買へと向かう。

「文芸部には顧問の先生はいないんですよ」
と流星。
「だから教頭先生が顧問の代わりというか、何かあると教頭先生に相談しているんです」
「へー、そうなのか」
だから妙に親し気だったんだな。

「ちなみに文芸部の鍵は職員室を入ってすぐ右の壁に掛かっていますから、もし文芸部に誰もいない時はそこから鍵を持っていってください。まあ、いつもは一年の僕が鍵の開け閉めをするので大丈夫ですけどね」
「わかったよ」
一応頭の片隅にでも入れておくか。

購買に近付いたところで、
「ほらっ、まだやってますよ真柴先輩」
流星が声を上げる。

俺を置いてどたどたと購買に駆け寄っていく流星。
よっぽど腹が減っていたんだな。

購買の前で少し悩む様子を見せた後、
「おばさん、コロッケパンと焼きそばパンとクリームパンを二つずつくださいっ」
「はいよ。流星くん今日は来なかったから休みだと思ってたよ」
「どうもすみません」
大量のパンを買い込む。

俺も追いついて購買のおばさんに声をかけた。
「カレーパン一つください」
「はいよ、カレーパンね」
「どうも」
カレーパンを受け取り金を払う。


購買をあとにして文芸部室へと戻る道すがら流星はこの瞬間を待ってましたと言わんばかりに袋から取り出したコロッケパンにかじりつく。

「真柴先輩はカレーパン一つでよかったんですか?」
「あ~これは俺のじゃなくて母さんに持って帰るために買ったんだ」
「そうなんですか。真柴先輩はお腹減ってないんですか?」
「俺は大丈夫。気にしないで食べてくれ」
「すみません」
そう言うと今度は袋から焼きそばパンを取り出した。いつの間にか流星はコロッケパンを平らげていたようだった。