しとしと降り続ける雨は、華蓮(かれん)の宮から見える蓮池に、幾つもの水紋を作り出している。

文机に、頬杖を付き、正面の明り窓からその様子を眺める女主(おんなあるじ)は、先ほどから、筆が止まったままだった。

文を書くつもりでいるようなのだが、動きは止まり、さもしげに、外を眺めていた。

「これは、重症ですね」

「まさか、玄国(げんこく)一の、切れ者、華蓮様ともあろうお方が」

「つまり、患いすぎているということですか?」

同盟の証として、異国から送られてきた、陰徳(いんどく)摩耶(まや)那須羅(なすら)、の、腹心三人組は、主の変貌ぼうぶりに、なすすべもない。

好奇の目を送る、ぐらいしか、できないわよねー。などと、案外、呑気に語りつつ、茶を嗜んでいる。

そして──。

「困りましたねえ。あの、覇気のなさ」

と、涼やかな声が、場に、緊張を与えようとした。

「おや、お三人、なんですか?その睨み付け。せっかくの、まったり、時間がだいなしー、と、皆さま、お顔に出ておりますよ?」

言われて、腹心三人組は、茶器を置き、ピタリと動きを止めた。

「あのですね」

と、緑眼白皙(りょくがんはくせき)の女、陰徳が言う。

「そもそも、なぜに?」

褐色の肌を持つ女、摩耶が言う。

「そうそう、あなた様は、正妃様にお仕えする宦官では?それなのに、その宿敵である、華蓮様の(へや)に、なぜ、いらっしゃるの?」

白銀(しろがね)色の巻き髪の女、那須羅が、止めを刺した。

三人からの非難を受け、共に座っている、色白、鼻筋すっきり、切れ長の瞳を持つ、美男の条件満載の宦官、秀英(しゅうえい)は、なんと、また。と、愚痴った。

「ですからね、お三人、その、漢詩のごとく、切れ切れに、語られるのは、お辞めになってくださいな。聞いているこちらは、繋ぎ合わさないといけないので、しごく、面倒。そして、那須羅様の一言が、一番、心に刺さります。ならば、那須羅様が、お一人で、語れば手っ取り早いのでは?」

見かけに反し、非常に口が悪い宦官に、三人は返す言葉もないと、飽きれている。

そもそも、答えになっていなかった。

よそ者と、言うべき者が、なぜ、三人と共に、まったり、茶を嗜んでおきながら、三人と共に、華蓮の事を心配しながら、悪態をついているのか。

「いや、まあ、これは、少し、華蓮様の気分をどうにかしなければ、耀我(ようが)様の思う壷になってしまいます」

はあーーー?!

勢い、三人組は、叫んだ。

あなた、結局、何しに来てるの?!

と、三人の視線を受けているのも、重々承知とばかりに、秀英は言葉を続けた。

「やりますよ、あの、下品なお方は、まだ、手ぐすね引いてますからね」

あーあー、と、秀英は、肩をすくめているが、もしや、単に、自分の主の愚痴を、吐き出しに来ているのか?

言いたい事は、よく分かるのだが、なぜ、この男が、房の中で居座っているのかが、分からない。

「……とにかく、いえ、つまり、まだ、茶会を開こうと、あちらは、躍起になっていると、そういうことですか?」

気転をきかせた、摩耶が、秀英に問いただし、追って、陰徳が、

「秀英様?あなた様は、耀我様の、お気に入りではなかったのですか?ここにいて……宜しいの?」

と、本質を問いただし、

「お戻りになられたら?」

と、那須羅が、追い討ちをかけた。

びくりと、秀英の眉が動き、

「いや、まったく、やはりですね、那須羅様のお言葉が、耐えられないほど、突き刺さりますね」

「だったら、ここで、耐えなくても宜しいのに」

那須羅の一言に、陰徳と摩耶が、含み笑った。