「住吉さんっ!一緒に帰ってもいいすか!?」
「はぁ、いいですけど」
「っしゃ!これで今月10回目っすね、快挙」
「べつに、そんなに断ったりしませんよ私」
「いーや、おれには分かるんすよ。住吉さん今日は一人でいたそうだなとか、今日は一人にさせたら危険そうだなとか!」
「なんですかそれ」
「センサーっす。好きな人センサー」
「……好きな人ですか」
「そす。てか告白したじゃないすか忘れないでくださいよ!ってやり取りも今月10回目です。ラブ」



なんて言いながらへらりと笑う、まるで犬のような彼は私の4つ年下の大学生、海野くん。


現在25歳の私と、21歳の彼。

私が大学生の頃から続けている飲食店のアルバイトに1年ほど前から入ってきた。友人の紹介で選んだバイト先は、ありがたいことに精神疾患持ちの私のことを理解してくれていて、一般企業への就職が出来なかった私をずっと雇ってくれている。


そして海野くんは、そんな私をどうしてか好きだと言うのだ。顔を合わせるたび、彼は懲りずに私を好きだと言っている。上がる時間が被った時は3回に1回くらいのペースで一緒に帰りましょうと言われる。駅までの道のりは同じだから許可する。

それだけのことを、海野くんはとても喜ぶのだ。



「住吉さん、最近顔色結構良いっすよね。最近てか、今月。なんかありました?」
「なんかとは」
「なんかはなんかっすよお。まあでも最近店も混みすぎず暇過ぎずで穏やかだし、天気も晴れ続きですもんね」


晴れ続きだと私の心は落ち着くこと、お店の混雑具合が回しやすい環境にあることをどうして知っているのか。問えば、「そりゃ好きな人の観察は基本ですよ」と笑われた。そうらしい。それが、海野くんの普通だという。

不思議だった。分からなかった。いちばん自由に楽しく人生を謳歌できる時期に、まともに就職できずにバイトで生き繋ぐ私なんかを好きになる経緯が未知だった。



「海野くんは……、どうして私のことが好きなの」
「んん、突然だ」
「ごめん…、でも気になって」


歩きながら、ぽつりと声を落とす。純粋な疑問だった。人に好かれる何かが自分にあるとは到底思えない。海野くんに病気のことは何も話したことは無かったけれど、1年以上仕事を共にしていたら私の心が弱いことは何となく察するものなのだろうか。

そうだとしても、生きることすらままならないような私を好きになるとは、一体。


私の問いかけに、海野くんは「ああ、」と思い出したように言葉を紡ぐ。思い返せば、これまで受けた告白は全て漠然としていて、ただ「好き」という言葉をぶつけられていただけのような気がする。その理由をちゃんと聞くのは、これが初めてだった。