小春日和の陽の光が心地よい。屋根に止まった小鳥がさえずり、晴れやかな気分にさせてくれる。
 こんな陽気なら布団を干そうか、衣服の洗濯をしようか、と思っていたら、侍女の琳々に止められた。

 自室でゆっくりしていてください、と言われ、実家の医院では忙しなく毎日手伝いをしていた春玲は手持ち無沙汰であった。

「ですから、良いのですよ春玲様」

 水汲み場で水甕(みずがめ)いっぱいに水を入れ、持って帰ろうとしている琳々が、ついてきた春玲を再び咎める。


「重そうだわ、私が帰りは持って行くよ」


「私は侍女、春玲様は妃候補なのですから、このような雑用は我々がやるので大丈夫です! 
 綺麗な指先に傷がついてはいけません」

 
年もそう変わらない少女の琳々は、宮廷での身分の違いを春玲に伝える。


「では私は宮廷でなにをしていれば……」


「いい香りのお香を炊いたり、髪を梳かしたり。
 教養のために詩を読んだり楽器の練習をするのも良いですね」


 妃候補は、皇子に気に入られるために自分を磨くことが仕事なのだろう。
 しかし何日も何日も、鏡と睨めっこしているだけの生活は性に合わない。

「そんなの退屈だわ。お願いだから私にも何か仕事を頂戴」

「もう、ですから重いものを持つのは駄目ですよ!」

 縁まで水の入った水甕は見るからに重そうだ。
 細い両腕で持ち上げ、ゆっくり歩いている琳々は見てられないので、二人で運ぼうと提案するも却下される。

 そんなことを繰り返していたら、水汲み場から自室へ戻る道の途中で足音が聞こえた。

 顔を上げて足音の持ち主を確認し、琳々ははっと息を呑んだ。


「春玲様、皇子様たちがいらっしゃいます!
 壁際に寄り、頭をお下げください」


 道を歩く女官や文官たちも皆、両端に分かれ通りを開け、皇子たちに向かって首を垂れている。

 皇帝の相続権のある皇子は三人。
 全員母親の違う腹違いだが、仲は良いと言われている。


「前から長兄の順に、詩劉(シリュウ)様、翔耀(ショウヨウ)様、湖月(コゲツ)様です。
 きっと良い天気だし、離宮に行きお休みになられるのね」


 この道の先には、木々や花の手入れがされた庭と、綺麗な装飾が施された離宮がある。
 吹き抜けのため景色もよく、風通りもあり涼しいため、しばし歓談をするには良い場所だろう。

 春玲は言われた通り道の端に寄り、敬意を表して頭を下げた。


 三人の皇子は談笑しながら歩いてくる。

 第一皇子である詩劉は朱色の衣に金の糸で龍が描かれた服を着ており、大人びた優しい表情をしている。

 第二皇子である翔耀は、背が高くぱっちりした瞳と太い眉が特徴的だ。
 市松模様の鶯色の緑の衣を着ており、上機嫌に兄と弟に話しかけている。


 そして第三皇子、湖月は、深い青色の衣に椿の花が刺繍をされた服を着ている。
 長い黒髪を垂らし、切長の目は遠慮がちに伏せられている。


 二人の兄の一番後ろを歩き、たまに相槌を打ってはいるが、その表情は相変わらず固い。