♢♢♢

「ねぇ、お母様。今日は帰りにお茶をしてから帰宅する予定だから夕飯は少し遅めにしてほしいの」
「わかったわ。今日も素敵よ、涼音」

ウェーブのかかった髪を念入りに鏡の前で整え、流行りのリボンでハーフアップにしながら今日の夕飯の話を母親にしている涼音の横で人形のように生気のない瞳をしている小春は妹の涼音とは対照的だった。
涼音は母親違いの妹だ。小春は妾の子だった。母親は小春を産むと直ぐに病気で亡くなった。その後、父親のいる本家に連れてこられたが妾の子というのは花園家にとって疎ましい存在であった。

母親はそれはそれは涼音を可愛がっていた。だが同時に小春への当たりは日に日に強くなっていく。唯一味方だと思っていた父親は母親の言いなりだった。愛人を作り、子を産ませていたというのはやはり罪悪感があったのだろう。
そして涼音も小春を嫌っていた。この家で味方は誰一人としていないのだ。

「ねぇお姉さま。何よ、これ!せっかくのワンピースがしわくちゃじゃない!」

涼音の部屋の床拭きをしていると、涼音のヒステリックな声がしてはっと我に返る。
顔を上げると鬼の形相をした涼音が仁王立ちしている。

「ごめんなさい。ちゃんとやったつもりだったのだけれど…」
「はぁ、本当に何をやっても駄目ね。今日も食事は抜きにしてもらいましょう。どうせあなたは永遠にこの家の召使として一歩も家から出られないのだから健康的にならなくてもいいでしょう?さぁ、謝ってちょうだい」


まるでゴミを見るような視線が送られる。小春は畳に頭を擦りつけるようにして謝罪をした。もう何年もこの家を出ていない。軟禁状態だった。