これは現在から三年前に遡る。

 この世界では15の年になると、誰もが必ずスキルが覚醒する。
 戦闘に向いた攻撃的なスキルから、生産職に向いたスキル、政治や商売に向いたスキルなど、そのパターンは多岐にわたる。

 15の誕生日には教会に行き、シスターから洗礼を受けるというのが王国の伝統となっている。

 幼少期に故郷を失い孤児院を転々としたリルアは、一日でも早く強力なスキルを手にして、独り立ちする必要があった。

 そして待ち望んだ15の誕生日。
 教会でシスターから告げられたスキル名は、これだった。

「『加速〈ブースト〉』と『静止〈クワイエット〉』です」

 リルアはそのセリフに、驚きで耳を疑った。

「二つ⁈ それに、なんだかよく分からないスキル名ですが……」
「ええ、二つのスキルが覚醒することは非常に珍しいですが……それ以上に、このスキルは私も聞いたことがありません」

 シスターは困惑したように、眉を寄せて頭を抱えていた。
 沢山の人々にスキルの覚醒を告げる役割であるシスターですら、知らないスキルが存在するものだろうか?

「……これは冒険者として役立つスキルなんでしょうか? 僕は冒険者として、一刻も早く活躍したいんです」

 必死に訴えるリルアを、憐れむようにして見つめるシスター。

「ーーリルアさん、貴方にとっては残酷なことですが……」

 シスターは少し迷った後、重たい口を開いた。

「少なくとも私に分かるのは、このスキルは攻撃魔法の適正がゼロだということです。冒険者の方に必要な、武術や剣技を高める効果も、どうやら無さそうです」
「そ、そんな……」

 シスターの告げる残酷な宣告に、リルアは心底打ちのめされた。

 冒険者の適性がない。
 この事実をすぐに受け入れることができず、リルアはギルドを通じて攻撃魔法の訓練や、剣技の師事を受けたが、どれも全く通用しなかった。

 戦闘のスキルに恵まれ、次々と新たな魔法の習得や、剣技の上達をして行く同年代の冒険者たち。
 リルアは指を咥えて見ていることしかできなかった。

 そんな時だった。
『銀河の流星群』のパーティメンバー募集を耳にしたのは。

 リルアは藁にもすがる思いでパーティに参加した。

 あとから、アークスの人使いの荒さですぐにメンバーが辞めてしまうことが原因で、常に人手不足だったことが分かったんだけど……。

 当時のリルアは『加速〈ブースト〉』と『静止〈クワイエット〉』の使い方が全く分かっておらず、とりあえず『支援役〈サポーター〉』として活動を始めたのだった。

 それから三年後、リルアはパーティを追い出されることになる。