「いやいや! ここは通らずに、はずして帰ろうよ!」
 俺は声を荒げた。これだけは譲れない。
「それじゃ七不思議じゃなくて六不思議になっちゃうじゃないか」
 山根は興奮する俺とは裏腹に、至って冷静な口調且つ、ため息混じりに言った。

 今日は七不思議解明の当日。

 集合前のミーティングで俺と山根はモメていた。
「いや、でも体育館は校舎と離れちゃってるし、何よりあそこはマジでヤバい気がするんだよ!」
 俺は必死に訴えた。それこそ死ぬ気で訴えた。でも山根はヒートアップすらせずに淡々と俺をなだめる。
「いや、ヤバいからこそ解明しなくちゃなんだよ。それこそデマだったらお前ももうビビらなくて済むだろ? 何よりお前一人のワガママでルートを変更するわけにはいかないだろ」
 山根の言葉に俺は何も返せず、うーん。と唸る。
「よし! 時間だ! 行こう!」
 悩んでいる俺の頭をポンとたたいてとと山根は立ち上がる。
 俺は諦めの溜め息をついて立ち上がり、重い足取りで山根と学校に向かった。

 九時十分前に着いたののに、杉川さんともう一人は既に裏門の前で待っていた。
「早いねー! やる気まんまんじゃん! イェー!」
 山根は着くなり二人とハイタッチを交わす。俺には何故、彼らのテンションがハイなのか理解できなかった。
「あ! 陰陽師きたよ!」
 名前も知らない女の方が俺を指さす。
「イェー!」
 その女が片手を上げて近づいてきたので、俺も精一杯の苦笑いでハイタッチを交わすと女はその手を掴んで握手に変えた。
「お疲れ会ではごめんね? すごい絡んじゃったみたいで。あ、私は森 聡美! よろしく!」
 この前とはえらい印象が違うキャラに俺は困惑しながら手を握り返す。
「椎名健一です。よ、よろしく」
 そして杉川さんにも挨拶すると同時に問いただす。
「喋ったでしょ?」
「面白すぎてつい。ね? ごめんね?」
 杉川さんは照れ笑いしながら謝ってきた。こんな顔されたら怒るわけにはいかない。
「全然!」
 じゃあなんで問いただしたんだ。と自分でツッコミを入れたくなるが、杉川さんはそんな事言うはずも無く笑っている。だから俺も笑顔を返した。
 全くこの笑顔はずるい。でも、おかげで気分は落ち着いていた。
「よっしゃ! 早速行きますか!」
 山根はいち早く裏門をよじ登って中に入った。俺は女子が入ってから最後によじ登り、一番後ろを陣取る。
「てか、どうやって中に入るのよ?」
 俺は最後尾から静かに山根に聞いた。
「甘いなー! そこは俺にまかせろよ! ちゃんと持ってきたから!」
 そう言ってポケットから出したのは、あの鍵だった。
「え? 何それ? 何それ?」
 女の子達は静かに騒いでいる。山根はその鍵をくるくる回しながら得意げに笑った。
「音楽室の鍵だよ! 合鍵ってやつ? 昔さぁ、ちょっとギターが欲しくて忍び込んだんだよね」
 そう。何故か俺もそれに付き合わされた。おかげで今も俺の部屋の押し入れにはギターが埃をかぶって眠っている。
「えー? あの事件って犯人山根くんだったの?」
 またもや女の子達は小声で騒ぐ。
「俺と椎名。だけどね」
 山根は俺を見てニヤっと笑った。
「うそー? そんなキャラじゃなくない?」
 俺に振り向く女の子達の反応の違いが、余計に俺の顔を下に向けさせた。
「まぁまぁ! それはいいとして着いたぞ音楽室」
 山根はシーッと人差し指を口に当てて言った。もう着いてしまったのか。
 心臓が暴れだす。

 いよいよ地獄が始まる……