「ピリリリピリリリ」
携帯電話に起こされる。寝ぼけ眼で電話に出た。
「どうしたー?」
「あ、え? あの、ごめんなさい。寝てたのかな? 本読み終わったか気になっちゃって」
俺は飛び起きた。
油断した。完全に山根だと思ってた。
「いやいや! 違う! 山根と勘違いして! 寝てないし!」
寝起きはやはり頭が回らない。「起きていた」ならまだしも「寝てない」なんて、支離滅裂な事を言ってしまったが、電話先で杉川さんは笑っていたので助かった。
「そんな弁解しなくて大丈夫だよ! こちらこそごめんね起こしちゃって」
俺はベッドに正座しながら朝まで本を読んでしまった事、読み終わった後メールしようか迷ったが、朝早かったのでやめた事を伝える。
「うそ! 感想聞きたい! ねぇねぇ! 今日予定ある?」
まさかのお誘い。たとえどんな予定があったとしても俺は行く。すかさず、予定がないことを告げて、一時間後に横山商店の前で待ち合わせをした。
電話を切って時計を見る。十四時だった。
心臓がまだバクバクと鳴っている。
着信履歴を見るとしっかり「杉川小春」の文字が映る。
初めて電話しちゃったぁ。と独り言を呟くと、また鼓動が速度を速めていく。枕に顔をうずめて「うおー!」と叫んで足をバタつかせた。
自転車に乗って横山商店に向かうと既に杉川さんは着いていて、横山さんと話をしていた。
俺が来たことに気付くと杉川さんは手を振ってきた。俺も振り返す。
横山さんはフッと鼻で笑って、鼻の下伸ばしたガキがきたわ。と言いながら店に戻る。
俺は鼻の下をこすったが杉川さんが、冗談だよ! と笑う。照れくさくて頭をかいた。
ふとよぎった不安。一応聞いてみる。
「横山さんに何か変なこと言われてない?」
「全然!」
杉川さんは首を横に振った。
「ただ、椎名君を待ってるって言ったら、付き合ってんのか? って聞かれて全然そんなんじゃないですよって答えたらラムネもらっちゃった」
ほら! とラムネを顔の前に持ってきて杉川さんは笑う。
あの親父! と心で叫んだ。確かに付き合ってなんかないが、改めて言われるとなんかヘコんだ。
自転車を置いて海沿いを歩きながら本の感想を話し合う。
俺もあの本がえらく気に入ってしまい、いつになく饒舌に喋ってしまう。
杉川さんと話していると時間が過ぎるのが早い。
夕暮れ時になって、そろそろ帰ろうか。とまた杉川さんを家まで送っていると夏祭りのポスターが目に入った。
「もう一週間後かぁ」
杉川さんがポスターを見ながら言った。
八月の最後の日曜に行われるこの祭りは夏休み最後のイベントになっていた。
「もうすぐ夏休みも終わりだね」
寂しそうに言う杉川さんに俺は、そうだね。と相槌しか打てなくなっていた。
頭の中では勇気を出して祭りに誘えともう一人の俺が言っている。
俺はガチガチになりながら意を決して口を開く。
「よよよ良かったら一緒に行く?」
勇気を出して言ったはいいが、杉川さんの顔がまともに見れない。返答が聞いていられないほど心臓が高鳴っている。
「本当? 行こう行こう!」
杉川さんの返事は俺を撃ち抜いた。
勇気を出して良かった。
山根の言ったとおりだった。俺達は良い感じだったんだ!
俺は神様じゃなく、山根を思い、空を仰いだ。
「聡美と二人で行く予定だったんだけど、椎名君と山根君がいたらもっと楽しくなるね!」
杉川さんの次の言葉に俺はまた撃ち抜かれる。
そりゃそうか。そうだよな。
急に冷静になる。
「夏休み最後のイベントだしね!」
「そうだよー!」
無理に笑ってみせる俺。杉川さんは無邪気に笑っている。
溜め息の一つも漏らしたいところだが、杉川さんの嬉しそうな顔を見るとそんな気も失せて俺も楽しもうという気になった。
蝉はまだ鳴いてるし、夏はまだ終わっていない。チャンスはまだある!
……はずなのに。何故だか俺は帰り道、ふと夏の終わりを感じた。
携帯電話に起こされる。寝ぼけ眼で電話に出た。
「どうしたー?」
「あ、え? あの、ごめんなさい。寝てたのかな? 本読み終わったか気になっちゃって」
俺は飛び起きた。
油断した。完全に山根だと思ってた。
「いやいや! 違う! 山根と勘違いして! 寝てないし!」
寝起きはやはり頭が回らない。「起きていた」ならまだしも「寝てない」なんて、支離滅裂な事を言ってしまったが、電話先で杉川さんは笑っていたので助かった。
「そんな弁解しなくて大丈夫だよ! こちらこそごめんね起こしちゃって」
俺はベッドに正座しながら朝まで本を読んでしまった事、読み終わった後メールしようか迷ったが、朝早かったのでやめた事を伝える。
「うそ! 感想聞きたい! ねぇねぇ! 今日予定ある?」
まさかのお誘い。たとえどんな予定があったとしても俺は行く。すかさず、予定がないことを告げて、一時間後に横山商店の前で待ち合わせをした。
電話を切って時計を見る。十四時だった。
心臓がまだバクバクと鳴っている。
着信履歴を見るとしっかり「杉川小春」の文字が映る。
初めて電話しちゃったぁ。と独り言を呟くと、また鼓動が速度を速めていく。枕に顔をうずめて「うおー!」と叫んで足をバタつかせた。
自転車に乗って横山商店に向かうと既に杉川さんは着いていて、横山さんと話をしていた。
俺が来たことに気付くと杉川さんは手を振ってきた。俺も振り返す。
横山さんはフッと鼻で笑って、鼻の下伸ばしたガキがきたわ。と言いながら店に戻る。
俺は鼻の下をこすったが杉川さんが、冗談だよ! と笑う。照れくさくて頭をかいた。
ふとよぎった不安。一応聞いてみる。
「横山さんに何か変なこと言われてない?」
「全然!」
杉川さんは首を横に振った。
「ただ、椎名君を待ってるって言ったら、付き合ってんのか? って聞かれて全然そんなんじゃないですよって答えたらラムネもらっちゃった」
ほら! とラムネを顔の前に持ってきて杉川さんは笑う。
あの親父! と心で叫んだ。確かに付き合ってなんかないが、改めて言われるとなんかヘコんだ。
自転車を置いて海沿いを歩きながら本の感想を話し合う。
俺もあの本がえらく気に入ってしまい、いつになく饒舌に喋ってしまう。
杉川さんと話していると時間が過ぎるのが早い。
夕暮れ時になって、そろそろ帰ろうか。とまた杉川さんを家まで送っていると夏祭りのポスターが目に入った。
「もう一週間後かぁ」
杉川さんがポスターを見ながら言った。
八月の最後の日曜に行われるこの祭りは夏休み最後のイベントになっていた。
「もうすぐ夏休みも終わりだね」
寂しそうに言う杉川さんに俺は、そうだね。と相槌しか打てなくなっていた。
頭の中では勇気を出して祭りに誘えともう一人の俺が言っている。
俺はガチガチになりながら意を決して口を開く。
「よよよ良かったら一緒に行く?」
勇気を出して言ったはいいが、杉川さんの顔がまともに見れない。返答が聞いていられないほど心臓が高鳴っている。
「本当? 行こう行こう!」
杉川さんの返事は俺を撃ち抜いた。
勇気を出して良かった。
山根の言ったとおりだった。俺達は良い感じだったんだ!
俺は神様じゃなく、山根を思い、空を仰いだ。
「聡美と二人で行く予定だったんだけど、椎名君と山根君がいたらもっと楽しくなるね!」
杉川さんの次の言葉に俺はまた撃ち抜かれる。
そりゃそうか。そうだよな。
急に冷静になる。
「夏休み最後のイベントだしね!」
「そうだよー!」
無理に笑ってみせる俺。杉川さんは無邪気に笑っている。
溜め息の一つも漏らしたいところだが、杉川さんの嬉しそうな顔を見るとそんな気も失せて俺も楽しもうという気になった。
蝉はまだ鳴いてるし、夏はまだ終わっていない。チャンスはまだある!
……はずなのに。何故だか俺は帰り道、ふと夏の終わりを感じた。