―ーーーあれから一週間が経った。

俺は横山商店の前に置いてあるベンチでラムネを飲みながら山根を待っていた。
 横山商店はコンビニのように品揃えは良くないし、結構ボロボロだけど、俺も山根も店の前にあるこのベンチから海を眺めるのが好きで、そして俺の家と山根の家のちょうど間くらいにあるもんだから待ち合わせ場所には重宝していた。
「わりぃわりぃ!」
 山根は息を切らせながら自転車を横に止めて隣に座った。
「いやー久しぶりじゃん!」
 山根は俺のラムネをヒョイっと取り上げて一口飲む。慌ててそれを取り返した。
「久しぶりってお前。別にたかだか一週間遊ばなかっただけで大げさな」
「毎日、学校で顔をつきあわせてると一緒にいないのが不自然に感じるもんよ」
「なんだそれ」
 山根につられて俺も笑う。
「んで、あれからどうなのよ?」
 山根はニヤニヤしながら顔を覗き込んでくるので、俺はニヤける顔を隠すためにそっぽ向いた。
「べ、別に」
「言えよー!」
「わー! やめろやめろ!」
 くすぐってくる山根の手を払いのけながら、実はあれから毎日メールしてる事をやんわりと伝えた。
「マジ? すげー進歩見せてるじゃん! どんな事を話すんだよ?」
 山根は自転車にまたがってどっか行こうぜと顎で促す。
「別に普通の世間話かな。まぁ学校の話がほとんどだけど」
 俺は自転車を漕ぎだして、やっぱりにやけそうな顔を抑えながら答えた。
「ヒューーッ!」 
 山根は冷やかすような声を上げ、俺を追い越した。なんだかやけにウキウキしてきてしまった俺もペダルを思いっきり踏み込む。
「ヒューーッ!」
はしゃいだ声が青空に吸い込まれる。俺も山根も思いっきり自転車を漕いだ。
「よっしゃー! 海に突っ込もうぜー!」
 海岸沿いを走りながら俺は叫ぶ。
「っしゃぁあ!」
 山根も叫んで、思いっきり砂浜に突っ込んだ瞬間に二人してこけると、山根はすぐに立ち上がって海に真っすぐ走っていった。
 走れメロスを見ているのかと錯覚する程にそれはそれは真っすぐにそして迷いも無く海に向かって行った。もちろん俺も負けじと追い掛けた。今なら何でも出来そうな気がした。

「俺この前、聡美ちゃんと遊んだよ」
 ひとしきりハシャギ終わると山根は砂浜に座りながら、さらっと凄い事を言った。
「え? 二人で?」
 横に座る俺が勢い良く顔を向けると山根はハハッと笑った。
「一歩リードだな」
 俺は遊んだ事より、聡美ちゃんという呼び方が気になったが、なんか悔しいので触れないでおいた。
「んでさ、また四人でどっか遊びに行こうって話が出てるんだけどどうする?」
「是非!」
 山根の質問に俺は即答でと答えた。

 ウミネコが鳴いている海はまだまだ夏を終わらせそうになかった。