鈴音さんに指定された時間に公園へ向かう。大きな公園だが、外はすっかり暗くなり、子どもたちはもうとっくに家路についているようだった。
 風が冷たい。いや、僕の全身を刺す針のような風だった。公園にある遊具たちが薄暗い暗闇で、ひっそりと佇んでいる。夜の公園は昼間に見る公園とは様子が違った。
 自販機で温かいお茶を買って、それをカイロ代わりに手に持つ。身体は風にさらされて寒いが、手のひらはじんじんと温かかった。
 公園の中にある電灯がほんのり灯っているが、それがかえって物悲しい。人気もない。

 鈴音さんは行けばわかると言っていたが、何があるというのだろう。もうすぐ約束の時間だ。
 ベンチに座っていると寒さが身に染みた。仕方なく立ち上がり、ペットボトルを両手で持ちながら足踏みをする。ちょっとでも身体を動かしていないと、寒さで凍えそうだ。
 公園のど真ん中にある銀色の時計が、待ち合わせ時刻を告げている。

 すると、コツコツと靴音が近づいてきた。ヒールの音だ。薄暗くてわかりにくいが、シルエット的に鈴音さんではないらしい。きょうは雲が多く、月が隠れて見えない。見えたらきょうは満月だった。いつもより夜が暗いような気がした。

 噴水の近くの時計前に人影が止まる。白いダウンコートを羽織った女の人――なっちゃんだった。

「来たね」

 背後から声がして、ビクンと飛び上がるほどびっくりした。振り返ると、鈴音さんが立っていた。

「これは、どういうことですか?」
「まぁ、見てなさい」

 なっちゃんに続いて、垣本さんが到着した。大きな紙袋を手に持っている。鈴音さんに言われた通り、やってきたのだ。

「え……どうして?」

 なっちゃんの声がする。ふたりの様子を見る限り、待ち合わせをしていたのではなさそうだ。

「お待たせー」

 なっちゃんの後ろから、スーツ姿の男が走ってきた。誰だ?

「その人は?」

 垣本さんの言葉に、なっちゃんはしどろもどろする。次々に男たちがなっちゃんの周りに集まって来る。垣本さんを含め男が四人もそろった。僕も入れたら五人だ。

「どういうこと?」

 全員がなっちゃんを見つめる。

「全員、恋人なんだろ?」

 鈴音さんが、そう言ってなっちゃんに近づいて行った。

「な、なんであんたがいるのよ!」

 鈴音さんがほくそ笑むと、さっきまで月をすっぽり覆っていた雲が消え、まん丸な月が顔を出した。鈴音さんの青白い顔が照らされて、美しく妖しい。

「キャバクラってのは、女が男に安らぎや癒しを売るところだ。本気になるのは野暮だが、あんたも遊びが過ぎたねぇ」

 男たち全員が、顔を見合わせて怪訝な表情を浮かべている。

「その鞄、いくつ持ってるんだい?」

 鈴音さんが指さしたのは、僕がクリスマスプレゼントに贈った鞄だ。

「俺が買ったやつだ」
「俺もだ」

 ここにいる全員が、この鞄を贈っているのだろう。

「俺も、きょう誕生日だから買ってきたんだけど?」

 垣本さんが持ってきた大きな紙袋の中身は、どうやら同じ鞄のようだ。

「どういうことなの?」

 垣本さんがなっちゃんに問い詰める。
 なっちゃんは下唇を噛み、俯く。

「本当に好きな男がいるのなら、しっかり掴んで離さないことだ。あんた、生活に困ってキャバクラで働いていたわけじゃないんだろ。男をたぶらかすのが趣味かい?」

 鈴音さんはそう言って冷ややかな笑みを浮かべている。