世の中には偶然の出来事なんてない。あれもこれも、すべては必然。偶然なんてひとつもない。と僕――町田浩一(まちだこういち)は思っている。
 クリスマスの電飾が寂しく残る駅前のビル街。恋人のなっちゃんが、大きな紙袋を両手にぶら下げて質屋へ入って行った。
 僕が見たのは、偶然ではない。必然だ。
 なっちゃんが何をしたのか。何を売り払ったのか。わざわざ本人に聞かなくたって、僕にはピンと来ていた。この間のクリスマスに僕が贈った、高級ブランドの鞄だ。

「どうしてもあれが欲しいのぉ」

 なっちゃんは熱く、それは本当に僕が溶けてしまいそうになるくらい熱く欲しがった。冬のボーナスを全額、なっちゃんとのクリスマスのためにつぎ込んだ。ボーナスだけでは足りなくて、貯金も崩した。
 僕の恋は、半年で幕を閉じた。質屋へと消えて行ったなっちゃんを見かけて以来、連絡がぱたりと途絶えてしまった。電話しても出ない。メッセージにも返事はない。挙句の果てに「現在この電話番号は使われておりません」と言われてしまった。連絡が取れなくなって半月になる。
 騙されたんだよ。
 自分の中で、声がした。
 なっちゃんのために使った金額が、ここ二年せっせと貯金した百万円ありったけだった。なっちゃんは僕に傷跡だけを残した。僕は身も心も懐も空っぽだ。
 大学を卒業してから働いている会社では、二年働いても昇給する兆しが全く見えない。僕は社会人になって以来恋人がずっといなかった。趣味もない。友達とは休みが合わず、なかなか会えない。わずかな給料から貯金するのが趣味みたいなものだった。
 半年前、先輩に強引に連れて行かれたキャバクラ(人生で初めて)で、なっちゃんと出会った。
 キャバクラで本気になるなんて、馬鹿だ。そう言われたら、返す言葉もない。運命の出会いだと僕は感じていたけれど、それはどうやら僕だけだったらしい。
 狭いワンルームの真ん中で、電気も付けず、僕は自分の身体を強く抱きしめた。
 僕は一体どうなる?
 金もない。あしたからまた退屈な日常が始まる。これから先、ずっと、ずーっと繰り返されていくだろう日常が。
 何を希望に、あしたを生きていけばいいのだろう。
 考えてみればなっちゃんとは手を繋いだり、軽くチュッとキスはしたりしたけれど、それ以上の関係は一度もなかった。……あれ。恋人って、そういうもの?
 騙されていたとしても、僕はなっちゃんを憎めない。僕はなっちゃんが好きだった。
 涙が一筋流れて、唇に染みた。しょっぱい。
 僕はそのまま、自分で自分を抱きしめて、慰めるように眠った。
 さようなら、なっちゃん。
 心の中でお別れを言う。なっちゃんは、何も言ってはくれなかった。