夜の繁華街。僕が半年前一度だけ先輩と足を踏み入れた場所に、再び立っている。絶世の美女、鈴音さんと。
 鈴音さんは黒いドレスを身に纏い、髪を巻き、バッチリメイクをしている。今朝の姿とは全く違う。今の姿は、どこからどう見てもキャバ嬢だ。

「あの……何をするつもりですか?」
「今から、面接に行くんだよ」
「面接?」

 僕は訳が分からないまま、鈴音さんに導かれるままお店のドアを開けた。
 僕が前に行った店よりも店内はずいぶん広く、お客さんたちで賑わっていた。大きなシャンデリアが天井にぶら下がり、ほんのりオレンジ色のライトが店内を照らし出す。黒いソファが高級そうに見える。

「店長、うちの従弟なんですけど仕事がなくて困ってて」

 え、ええ?
 鈴音さんは店長に甘えた声ですりすりと猫のようにすり寄った。店長は「まいったなー」と違う意味で困ったように嬉しそうだった。
 僕は水商売の店に売られるのか?

「まぁ、今晩はたまたま裏方が足りなかったんだ。仕事はやってみないとわからないだろうから、今晩だけ働いてみてから採用を決めるよ」

 僕はそのまま店の裏側へ連れていかれた。鈴音さんは、微笑みながら手を振っている。
 キャバクラのボーイなんてやったことがない。ボーイがどんな仕事なのかもよくわからない。
 店長からまた別の男に引き渡される。

「名前は?」
「あ、えっと、町田浩一です」
「じゃ、これに着替えて」

 僕は名乗ったのに、相手の不愛想な男は名乗らなかった。見た感じ、僕より年上そうだ。
 制服を渡され、僕は言われるがままに着替えた。別に、この店から飛び出してもう二度と鈴音さんに関わらなければそれで終わる話なのに、そうしなかった。
 制服に着替えると、酒を運べだとか、灰皿を片付けろだとか、トイレや客が帰った後のテーブルの片づけなどの雑用業務ばかり言いつけられた。さっきの不愛想な男は客が来ると笑顔で席に案内している。当然だ。キャバクラの主役は女の子なんだから。
 オーダーを取ったり、酒を運んだりしながらちらっとフロアにいる鈴音さんを見ると、客と楽しそうに話をしている。鈴音さんって一体何者なんだ? ここで働いているのだろうか。だとしたら、なんのために?

「あの、彼女ってもうずっと働いているんですか?」

 店長にこそっと質問する。

「誰? サクラちゃん?」
「サクラちゃん?」

 僕の方が訊きたい。サクラちゃんとは誰だ。

「うちの人気の子。半年くらい前から働き始めたけど、滅多に来ないよ。だからきょうは混むね、店」

 滅多に来ないキャバ嬢。それでも店は雇っているのか。もはやレアものだ。
 店長が言う通り鈴音さんが店に到着して一時間もすると、店内は鈴音さん指名の客ばかりになった。