澄み切った青い空に大きなトンビが気持ちよさそうに泳いでいるのを羨ましく思いながら、私、今泉梨華(いまいずみりか)は大きなため息を吐いた。

人生は生まれた時からほぼ決まっていると思う。

ひと月後の自分を想像すると、胸が憂鬱に乾く。

背中に翼が生えて飛んでいけたらどんなにいいだろう。
そんなことができたら、一年、ううん半年、いや3か月間でいいからどこか遠くへ隠れていられるのに……。






「お嬢様、長い間風にあたられていては風邪をひかれますよ」
 
背後から声をかけてきたのは、家政婦の加代(かよ)さんだ。加代さんは、私が産まれた時から今泉家に仕えているベテランの家政婦である。

「大丈夫よ。お日様がポカポカ暖かいもの」

5月上旬の梅雨間近。アジサイによく似ているボール状の花を咲かせたオオデマリの木がゆらゆらと揺れているけれど、お日様の光がよく入る縁側は暖かくて気を抜くとウトウトしてしまいそうなくらい心地がよい。おそらく私は1時間近くここでボーっと外を眺めている。

「過ごしやすい時期とはいえ気を付けていただかないと……」

加代さんが次に何を言うかがわかり、私は「わかったわ」と、立ち上がった。

「今は大切な時期ですからね。お嬢様にもしものことがあったら、旦那様に叱られてしまいます」

大切な時期__。
それは今聞きたくないワードの一つだ。
きっと、それは別の人からするとその通りなのかもしれないけれど、私からすると絶望でしかない。

「はぁ……」

たまらずため息をこぼすと、加代さんが苦笑した。

「ご結婚が決まってからのお嬢様はため息が多いですね。マリッジブルーでしょうか」

加代さんの言う通り、最近の私はため息ばかり吐いている。ため息の数だけ幸せが逃げると聞くけれど、とっくに私の幸せはどこかに逃げだしてしまったはず。

なぜなら私はひと月後、好きでもない人と結婚するのだから__。