時刻とは裏腹に、空の色は昼休みが終わった後のような青色で、夕方に相応しい夕焼けは少しも見えない。十八時を示す時計が壊れているわけではないことは、駅に表示されている時刻表や、会社帰りと思わしきサラリーマンの存在が教えてくれた。

 この季節の空は大抵、夕方を飛ばして昼からいきなり夜になるものだ。あと一時間もすれば、空は黒色に染まるだろう。

 教科書が詰まった鞄は握力テストで平均値であった男子高校生の腕力にそこそこの疲労をもたらし、改札をくぐりぬけた後、ホームの端の椅子に腰を下ろしたいというのが本音だった。けれどそれをすれば、今は楽な時間を過ごせても電車の中では揺れと混雑で苦しむことになる。

 電車が発車したばかりのホームの人だかりは少ないものだが、乗り遅れた人達は次の電車に乗るために、それぞれ既に白線と点字ブロックの内側で待機を始めていた。電車が来る頃には列が出来ていることを考えると、確実に席を勝ち取りたい以上、今の短い時間は我慢をするべきだ。乗っている時間の方が圧倒的に長く、空気も良いものではないのだから。


(十七時には学校を出ればよかったかも)


 そうすれば会社員達は今よりも少なかったのではないか。

 なんて殆ど日課といえる後悔をしたところで遅く、十七時に学校を出たら出たできっと別の後悔をする。学校の休み時間を過ごす教室は大嫌いでも、放課後の人気の少ない学校は好きだ。


(帰りたくない……)


 家に。六限目を終えた後から完全下校時刻のチャイムが鳴り響くまでが心を休められる短い時間で、秒針の音を聞きながら、迫る下校時刻を感じて息苦しくなる時間でもある。