ここは人間界とは別の時を刻み、妖力を持つ者だけが住む妖魔界(ようまかい)。
 妖魔界に住むまだ十三歳の少年であるセイジュは、迷い込んでしまったら最後、二度と出られないと噂され、囚われの樹海とも呼ばれる妖魔の森に躊躇することもなく入っていった。
 けれど、あの好んで入る者などいない薄気味悪い妖魔の森からどうやって帰ったのかは覚えていなかった。
 目が覚めたのは、そこは見慣れた自宅ではなく、壁や窓、カーテン、天井にベッド。すべてが真っ白で清潔そうな部屋のベッドの上
に寝かされていた。
 体中が痛くて悲鳴をあげていて動けなかった。腕を見れば、両方とも包帯でグルグル巻きにされていた。起きられないセイジュには見えなかったが、この分だと両足も固定されていることだろうと予想がついた。
 病院か、と思った。
「お父さんとお母さんはどこにいるの?」
 病院ならば、両親が見守っているはずの見舞い者用のイスに座っていた見知らぬ男性にたずねた。
「私はウォルフェンデール家の当主です。セイジュ・カルヴァードくん。君の姉、エマ・カルヴァードは、人間界への不法侵入および、国家反逆罪で指名手配となった」
 とてもすぐに信じられることではない。嘘だと言われた方がよっぽどもっともらしい。思いもよらない事実を突きつけられ、セイジュは言葉にならない声を絞り出すようにして聞いた。
「……指名、手配……?」
「時空犯罪、という言葉は聞いたことがあるだろう? 人間界への逃亡は、中でも一番罪が重い」
「……」
 セイジュは何も言葉が出てこなかった。
「エマ・カルヴァード個人だけの問題ではなく、ご両親でもあるカルヴァード夫妻にも責任が問われる。国を捨てる行為は、国家反逆罪であり、王家に背く大罪。一族が皆で償わなければならないからだ。だがね、セイジュくん。君はまだ何もわからない、ほんの子どもだ。私は、君にまでも罪を背負わせる必要はないと考えている。だから、安心して眠りなさい。まだ君の傷は癒えていない。体も、心もね」
 そう言ってなぐさめてくれたウォルフェンデール卿の言葉に、セイジュはただまぶたを閉じ、涙をこぼした。

 ――三年後。

 まだ、少しだけ可愛らしさの残る小顔が年相応の印象を与えるけれど、セイジュはその顔に似合わないくらい、心身ともに大きく成長していた。