八時十五分。
「おはようございます!」
 校門の前に立ち、登校してくる生徒たちに元気よく朝の挨拶をする。
 制服の左腕に『風紀』の腕章をつけた、風紀委員の仕事の一つだ。
 高野(たかの)美咲(みさき)は、この春、二年生に進級したと同時に、風紀委員に任命された。
 三学年、各クラスから一名ずつ任命される風紀委員の人数は、全員で二十一人。シフトを組んで、毎日数名ずつ校門の前に立つ。
 朝は主に、校則違反や遅刻者を指導する。
 進学校として有名なこの高校は、自主性を高めるため、生徒の自由を尊重する校風だ。 だから、校内の風紀にも教師はあまり口を出さず、風紀委員が取りしきっている。
 だからといって、何をしてもいいということにはならない。金髪などの常識の範囲外のヘアスタイルや、ピアスやネックレス、指輪などのアクセサリー、華美な色のマニキュアは校則違反の対象となる。
 すすんで指導されたいと思う生徒などいないので、ほとんどがアクセサリー類やマニキュアは、校門での風紀委員のチェックを通過してから身につけたりしているから、校舎の廊下などで風紀委員とすれ違ったときに校則違反を見つけられるケースもあるが、それはまれだ。
 校則違反した生徒は、その回数や、度合いによって指導方法が異なる。
 あまりにもひどい違反であったり、朝のチェックで何度指導しても改善しようとしない生徒は、放課後に風紀委員が指導室に呼び出して指導したり、顧問の教師に提出する、校則違反者の始末書を書かせることがある。
 美咲はとても真面目な性格なので、風紀委員の仕事に向いていると、三年生で風紀委員長の佐々倉要(ささくらかなめ)に褒められた。「高野さんが三年生だったら、絶対に風紀副委員長に任命するよ」と、言われたこともあるくらいだ。
 美咲に、風紀委員の仕事をイチから教えてくれたのも佐々倉であるし、美咲が風紀委員の仕事に慣れていないのと、奥手な性格ゆえにうまく校則違反者を指導できなかったりと悩んでいるのを、美咲が言う前に佐々倉の方から気づいて励ましてくれたり、アドバイスをくれたりもした。
 将来は警察官になるという夢を持つ佐々倉は、一年生のときから風紀委員に立候補し、ずっと務め続けてきて、今期から風紀委員長にまでなった男なのだ。