閉店間際に入ってきた女子高生二人に、局員の中年女性は一旦目を丸くしたものの、すぐに柔和な笑みを見せた。すぐに穂花と私であることに気づいたようだ。
 こんな小さな町だと、たいていは顔見知りなのだ。特に私なんて、真向かいに住んでいるわけだし。

「切手一枚くださーい」

 きょろきょろとカウンターの向こうを見回しながら、穂花は白々しく切り出した。

 カウンターの向こうには、中年女性一人、ベテラン男性一人、そして――

「あれ、君は昨日の!」

――いた。
 やっぱり太陽みたいな笑顔。
 私のこと、覚えてくれてるんだ……。そう思うとじんわりと心が温まる。

「あれー、お兄さん、ちかげと知り合いなんですかー?」

 棒読みすぎるセリフ!!
 下手すぎて笑えてくる。穂花は絶対に演劇部からスカウトされることはなさそうだ。

「そうそう、切手がほしいんだよね? 何円分? 出すよ」

 穂花は適当に、「84円切手で!」と指定する。なんだ、ちゃんと封筒一通分の料金を覚えてるんだ。
 まだ来たばかりだというのに、張り切ってあちこちの抽斗を開けて切手を探す日野陸斗。全然違う抽斗を開けているのか、女性局員が慌てて「こっちよ」と指さす。
 別に切手なんてほしくないからこそ、ちょっとかわいそうにも、かわいくも思えてしまう。

 一旦そう思ってしまうと、そう思う前と日野陸斗の見え方が少し変わってしまった。
 不器用な年上の男。

 いわゆる「母性本能」ってやつだろうか?
 手伝ってあげたい!というお節介がむくむくと腹の底から湧き上がってくるのだ。
 手取り足取り、一緒に切手を探してあげたい!となぜか思い始めている自分がいた。

 そんなわけで、
「あったあった! はい、84円切手!」
とやっとのことで見つけ出した時には、
「よくがんばったね」
と頭を撫でてあげたくなるくらいだった。
 というか、それくらいのキラキラ眩しい笑顔を見せたのだ。

――ほんと、犬みたいな男の人だ。

 よく犬タイプ/猫タイプみたいな表現の仕方があるけど、絶対に気まぐれな猫タイプではない。

「ありがとーございまーす!」
 またしても棒読みで穂花が支払い、切手を受け取る――と見せかけて、突然、日野陸斗の手首を掴んで、それまでの棒読みとは打って変わった情熱的な口調でこう言ったのだった。

「お兄さん、すごくイケメン! 私のタイプかもしれない!」

……ええええええ!?