やだやだ、恋なんて。
 絶対にするわけにはいかな――

「あの、すみません。地元の方ですか」

 声を掛けられてから、ハッとする。
 私の顔の数センチ前に、男の人の胸がでん、と立ち塞がっていた。
 空が眩しいのと、考え事をしていたのとでずっとうつむいていたから気づかなかった。

「え、ええ。そうですけど……」

 答えながら、半歩後ろに下がる。
 同時に見えたのは、

――太陽みたいだ。

 肌を真っ黒に焼いた、背の高い大学生くらいの男の人。
 私が答えると、くしゃっと笑って「あー、よかった!」と天を仰ぐその姿に、ほんの一瞬、昔飼っていた犬を思い出してしまった。
 浅黒い肌に白い歯が映える。
 体のパーツが全部直線でできてるって、こういう感じなのかな。
 首も腕も胸板もガッシリしていて、おまけに鼻まで高くまっすぐ、眉毛もマジックペンで描いたみたい。

「実は郵便局を探していて。なぜかスマホのマップに出てこないんすよ」

 半分丁寧、半分フランクな口ぶりなのは、私が明らかに女子高生だからだろうか。

「郵便局なら、うちの家の向かいです。案内しましょうか」
「いいんですか!? ありがとうございます」

 眩しいくらいの満面の笑みが私の瞳に飛び込んできた、その瞬間。

――あれ……。

 胸が大きな音を立てた。漫画みたいに本当に、「ドキン」と音を立てて、揺れたのだ。

――何でこんなに暑いんだろ。

 見慣れた道をただ歩いているだけなのに、ものすごく暑い。
 見知らぬ男の人が横にいる。
 まるで犬みたいな、そして太陽みたいに眩しい笑顔をした男の人が。
 たったそれだけのことで、私の体は熱病に冒されたかのようだった。