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 日野陸斗と会わなくなって一週間が経った。今は、お盆が終わり、一つの大きな台風が町を襲って、夏休みも残りわずかとなった、八月後半。
 切れのいい刃で心をえぐられた私の傷は、まだ癒えたとは言えないけれど、ただ日野陸斗への嫌悪感をバネに山積みのままの宿題を日々こなしていた。

「ほんと、嫌な人だった」

 わざとらしく口にしてみると、なんだ、案外恋ってこの程度のモノだったんだな、と安堵する。

 自分の記憶が意のままになるのなら、きれいさっぱり忘れてしまいたいところだけど、残念ながら人間の脳はそんなに便利にはできていない。やはり時たま思い出しては、歯を食いしばるほど悔しい思いに駆られるのだった。

 日野陸斗はといえば。
 郵便局のアルバイトはいつの間にやらやめてしまっていたらしい。
 初めに言っていたように、この海辺の町に滞在するのは二週間だったようだ。

 二週間……か。

(つまり、ちょうどここを去る前に私にあんなひどいことを言ったってことか)

 いや、いや。それはきっと無関係のことに違いない。

 日野陸斗が姿を消して、変わったことがある。
 それは、人魚のうろこのこと。
 いっとき、体のあちこちに増え始めていたうろこは、徐々に色が薄くなり、今はほとんど元の人間の肌に戻っているのだった。
 おかげでノースリーブもミニスカートも、遠慮なく着ることができるようになったのはありがたい。

 そうだ、これで良かったんだ。

 私はまた、人間として生きていくことができる。

 そう考えれば、何も悪いことじゃない――よね。



 そんな思い全てがひっくり返ったのは、八月末のことだった。