突然彼の態度が豹変した日のことを、私は忘れもしない。お盆休みに入ったばかりの、雨の日のことだった。

 すでにそのころ私は自分の肌の変化を家族に知られないようにするのに、必死だった。お風呂上がりにはすぐ長袖を着た。どれだけ暑くても、誰にも肌を見せまいと。
 ときたま剥がれ落ちる鱗があったことに、鈍感な私は気がついていなかった。

 夜にメールをするのはすでに私と陸斗の間の習慣になっていた。
 だけどその日は、いつまで待っても私のメールへの返信は来なかった。

(どうして、無視されてるの?)

 何か陸斗の地雷を踏んだのだろうか。
 傷つけてしまったのか。
 それとも失望させてしまったのか。

 そのいずれにも心当たりがなく、焦燥感に駆られる。

 返事が来たのは、4日後のことだった。その4日は私には4年にも思えた。待ちに待ったメールには、淡々とこう綴られていた。

『もう会えない』

(どうして?)

 胸が、押しつぶされそう。
 体が引き裂かれたとしてもこんなには痛くないんじゃないかってくらい、体がじんじんと痛む。

『ちゃんと面と向かって説明してください』

 震える指で打てたのは、そんな事務的な一文。

 正直、怖かった。
 メールで何か言われる方が、よっぽどダメージは少ないはずだ。
 だけど、こんな風に機械的に終わらせられるのはもっとつらい。

 会うことができたのは、その翌日の夕方だった。
 かつて彼が涙を流した浜辺で、彼は待っていた。

 単刀直入に私は切り出した。
「もう会えないって……どういうことですか?」
「そのままの意味だよ。俺はちかげにはもう会えない。というか、会いたくないんだ」
 会いたくない――その言葉は直接的に私の心をえぐった。
「最初はいい友達になれるんじゃないかって思った。でもなんか違う」
 彼の声は硬かった。緊張で顔も声も強ばっている、といった印象だ。
 それに「友達」か。
 最初から無理だったんだ。「恋人」になることなんて。
 ガンガンと頭を金槌で殴られているような感覚に陥り、私はこめかみを押さえた。

「一言でこれが理由だとは言えない。でも人間関係ってそんなもんだよな? 合うか、合わないか、なんだよ。俺たちは人間として合わない。一緒にいると滅入るんだ」

 一気にまくし立てると、極めつけにこんな風にギロチンの刃を下ろした。



「ちかげの何もかもが俺は嫌いだ」