恋愛ソングが嫌いだ。
 ふわふわと初恋の甘さや片想いの切なさを歌う鼻にかかった歌声は、いつも私を苛立たせる。

「恋しちゃった」? 「あなたのことが頭から離れない」?
 勝手にすれば?

 16年間生きてきたけれど、恋なんて無縁だ。
 恋したこともないし、恋をしてもいないし、これから恋をするつもりだってない。
――いや、本当のことを言おう。


 私は、恋をしてはいけないのだ。


 恋を禁じられた少女――なんて言うと自分に酔いしれているようだけれど、それが事実。
 
 魚住ちかげ。16歳。
 恋をすると私は――人魚の姿に、戻る。


「結ばれる」よりも前に、決して異性と両思いになってはならない。
 それが魚住家の血を引く者の定め。

「結ばれる」――すなわち、子をなす前に異性と両思いになると、我々の本当の姿・人魚に戻ってしまうのだというのが、我々一族の言い伝えだ。
 だから私たち一族は、好きでもない異性と婚姻関係を結ぶことでしか、子孫を残してこなかった。「結ばれた」後で互いを好きになった場合(たとえば私の両親)は、人間の姿を保つことができる。

 禁忌を犯し、異性と両思いになった祖先たちは、深い海の世界へ引き戻されてきた。
 しかも某アニメの中に出てくるような可愛い人魚になるのではない。深海の底で目も鼻もない醜悪で魚臭い人魚になってしまうのだ。

 太陽光が降り注がない、暗くて冷たい海の世界に引きずり込まれるなんて、まっぴらごめん。
 光降る暖かい、そして明るい陸の世界で暮らせるなら、恋なんて簡単に我慢できる。

――そう思っていた、16の夏の始まり。

 あの人が、私の世界に舞い降りてしまった。