彼女の秘密を知ってから、彼女は何事もなかったかのように毎日を過ごした。
僕とも変わらず接し続け、そしてぽっくりと死んだ。
一年ちょっとで死んでしまった。
だからきっと、あの日以降も僕に寿命を渡していたのかもしれない。
それに、ぽっくりとは言い方が悪いかもしれない。
それでもあっさりと言いたくなるほど簡単に死んでしまった。
僕の心は無だった。
彼女の死は突然来た別れではない。
おじいちゃんの時とは違う。
おじいちゃんとの後悔の残る別れ方のようなものでは無い。
受け入れられる覚悟を作る猶予(ゆうよ)があった。
だからいつもよりもほんと少しだけ余裕があった。
そんな彼女の葬式(そうしき)は本当に簡潔と言ってしまえるほど、素早く(とり)り行われた。
もしかしたら、彼女自身が何か周りの人に対して、伝えていたのかもしれない。
そう感じさせるほど、淡々(たんたん)と進んで行った。
彼女は今白い箱の中で花いっぱいに囲われて横たわっている。
もう今後彼女と話すことは無い。
雑談も、喧嘩も、真剣な話も、何もできない。
思い出を増やすことも、共に成長することもできない。
僕には、たくさんの『時間』を彼女に作ってもらった。
生きる権利を与えてもらった。
この世には、どうしようもない時間の使い方をする人も多い。
自分で何も考えずに、ただ言われるがままに生活する人。
人に生かされて、ただ引きこもってばかりいる人。
殴り合いや暴力など、喧嘩ばかりする人。
法を犯すような人。
ただ、そんな生き方をするなんて、彼女に顔向けが出来ないと思った。
少なくも、彼女の優しさが僕の人生を救った。
それならば、僕はより多くの人に、彼女の優しさを伝えたいと思った。
見返りもないのに、ただ僕を救ってくれた彼女に顔向けできる人生でありたいと思った。
なぜそこまで僕が優しいのか聞かれた時、堂々と彼女の存在を自慢できるようになりたいと思った。
僕の明日はまたやってくる。
必死に生きて、全力で戦って、そうして明日を掴む。
僕は他の人よりも、一日一日の価値が重たいと思う。
でもそう感じられることに嬉しさを覚える。
どんな困難が壁として立ちはだかっても、命がなければ戦うことすら出来ない。
壁に向き合える権利は彼女のおかげで手に入った。
だからこそ、折れることは無い。
与えて貰えた機会を、手放すなんてもったいないことはできない。
生きられることの重みを人よりも少しだけ知っているから。
全ての日を、無駄にならないように、全力で生きようとするから。
明日を掴みとろうと必死になれる。
僕はその当たり前の素晴らしさも伝えたいと思った。
彼女のおかげで実感できた当たり前の素晴らしさを、一日一日の重みを、多くの人に知ってもらいたいと思った。
彼女と出会って話した日々は確かに短い。
でも、宇宙よりも広く、海よりも深く、彼女と密に関わることができたと思う。
僕のこれから先の夢を与えてくれた。
素晴らしい生き方を残してくれた。
またいつか僕が死んだ後に天国で会う彼女に、たくさんの自慢話を届けたい。
彼女が救った命は、多くの人の力になったと届けたい。
ライフカウンターによって命の重みがより強く刻まれている分、後悔なく生き抜きたいと強く願う。
誰にも話すことの無い、彼女と二人だけの秘密。
心に灯したまだ小さな将来への光。
僕の心にできた新しい覚悟だけはすでに彼女に届いたのかもしれない。
さっきよりも横たわっている彼女の顔は、いつもの暖かい陽気な雰囲気をまとい、優しい微笑みを浮かべていた。