渚を振り返る。俺の足跡もなく、夕暮れの中変わらない波打ち際が東へ西へ伸びてる。
 当然だ。いくら踏んでも、どう踏んでも、ここに俺の足跡は残らない。
 頬にぴりっとした刺激が走る。
 冷たい潮風に体がすくむと、離れたところで母親が子供を呼ぶ声がした。呼ばれた子供は痛そうに足踏みをしながら駆け寄る。
 殺伐とした浜辺だけど、誰も俺に気づかない。
「ここにいるのに」
 呟くと同時に海に細波(さざなみ)が立った。どんどん遠ざかる波打ち際に、苛立ちが湧く。
「お前は?」
 イースターホリデー終わりの四月。俺たちは大学の新学期を迎えた。
 それだけ。
 ここ半年のめぐるましさと反比例する、あっさりすぎる近況だ。
 ――リオ
 俺の名を呼ぶ声を思い出す。
 もう終わった相手。
 海の向こう……いや、もっと遠く。
 海、大陸、そしてまた海を超えた先にいる、彼を思った。


「君も留学生……だったりする?」
 九月。講義の後にそう呼びかけられた。
 遠慮ないな。
 そう思って振り返り、彼と目が合った。