「どーしても、イケメンとデートがしたいの!」

杏奈が俺の目の前で、身もだえしながら叫ぶ。

知ってるよ。杏奈がイケメン好きなのはよーく知ってる。でもね、あいつは止めたほうがいい。絶対うまくいかないから。

「そっか、分かった。分かったぞ」

さっきまでムンクの叫びみたいな顔をしていた杏奈が、急にニヤニヤしながら俺を見る。

「妬いてるんでしょ、私がイケメンとデートするの。もういい加減あきらめたら。健太はユーレイなんだから、私とは絶対デートできないの!」

そう。俺、大西健太はユーレイ。5年前にユーレイになった。前田杏奈はユーレイになる前に好きだった女の子。この世で杏奈だけは俺のことが見える。

「別に妬いてなんかないよ。杏奈にいい彼氏ができたらいいなって思ってる。でもね、藤田はダメだよ。うまくいかない」

うそだ。俺は猛烈に妬いている。杏奈に彼氏なんか永遠にできなきゃいい。
でも、二十歳で女子大生でイケメン好きの杏奈が男と付き合うことを阻止することなんて出来ない。だからせめてましな男と付き合ってほしいと願っているだけだ。

「藤田くんの何がいけないの?めっちゃイケメンじゃん。しかも彼女いないんだよ。もしかして誰か好きな子とかいる?いるんだったら、教えてよ。ユーレイなんだからそれくらい分かるでしょ」

ため息が出る。(ユーレイでも息はする。)杏奈はいつも俺を、困ったら何でもしてくれるドラえもんみたいに扱うけど、ユーレイには秘密のポケットもないし、タイムマシンもない。ただ、姿が普通の人間には見えないだけだ。

「あのね、もう何十回も言ったと思うけどさ、ユーレイって人の気持ちが読めるわけじゃないんだ。だからあいつに好きな子がいるかどうかなんて分かんない。付き合ってる子がいないのは確かだけどね」

藤田の気持ちは読めないけど、藤田の行動はこっそりチェックできる。それはユーレイの特権だ。

杏奈が藤田直樹っていう大学の同級生とデートしたいって言い出したから、2週間ほど張ってみた。確かに男の俺から見てもイケメンだ。悪い男じゃない。彼女らしき子はいないし、そこそこ真面目に大学にも行ってるし、男友達の評判も悪くない。

ただね。。。あいつ、熟女好きなんだ。ちょっと好みとかそんなレベルじゃない。ものすごく、めっちゃ好きなんだ。
そりゃ誰にでも趣味はあるよ。ブス専だってデブ専だって構わない。破産しなければアイドルオタでも構わない。法律に触れなければロリコンだってOKだ。でもね、あいつのは相当ガチなんだ。
20歳くらいの男子なら、街を歩けば若い女の子をチラチラ見るのは当たり前だけど、あいつは若い女の子は完全スルーだ。そのくせ、40オーバーくらいの気に入った女性だと、歩いている方向と顔が逆向きになるまでガン見する。横で見ているユーレイの俺が恥ずかしくなるくらいだ。
バイトは週5で家庭教師をやってるけど、あれも金のためでもなければ子供が好きなわけでもない。絶対、生徒の母親狙いだ。子供に算数とかを教えている時は魂が抜けたような顔をしているけど、おやつを持って母親が入ってくると急に目の色が変わって、嬉々として話し始める。そのおかげか、母親たちからの受けはいいみたいだが、まさか母親たちもこの男が自分を目当てに家に来ているとは夢にも思っていないだろう。

確かにイケメンで悪い奴じゃないから、デートするだけならいい。でも絶対、杏奈と会っている間はあの魂の抜けた顔になるはずだ。ましてやその先になんか間違いなく進めない。だから止めたほうがいいって言ってるんだ。

だけど、杏奈に「こいつ、重度の熟女フェチだよ」だとは言えない。ユーレイだからといって、いや何でも盗み見できるユーレイだからこそ、個人のプライバシーは尊重しないといけないと思ってる。ユーレイの名誉にかけても。

「ねぇ、私のこと好きなんでしょ。だったら応援してよ、邪魔するんじゃなくって。必死の思いでデートに誘おうとしてるんだから」

さっきの鬼の形相から一転して、今度はすがるような顔で俺を見てくる。

仕方ないか。別にデートするだけなら問題ないし。それで杏奈自身が、なんか違うなって思ったらそれでいいか。

「分かったよ。じゃあ誘ってみたら」

「ありがと。映画がいいかな、最初のデートだったら」

杏奈はノリノリでスマホを見ながら上映中の映画を探し始める。

「ねぇ、どの映画がいいと思う?藤田くんの趣味とか分かる?」

「この、『消せない炎』ってやつがいいと思うよ」

「えー、これっておばさん女優ばっか出てくるドロドロの不倫ものだよ。こんなの、デートに向かないよ、却下、却下」

違うんだ、これこそがあいつの大好物なんだ。この券を見せたら、間違いなくあいつは誘いに乗ってくる。

「いや、あいつ、日本映画が好きみたいだし、こういう渋い感じが好きだと思うよ。絶対喜ぶと思うから、これで誘ってみなよ」

なんかやけに自信たっぷりだね、と言いながら、しぶしぶ杏奈は題名をスマホのメモ帳にコピペした。