「依頼が来た」



夏休みが開けてはや1週間が経った9月某日。

時は放課後。本校舎2階、職員室前の前を通りたどり着いた生徒会室───の、隣の空き教室にて。



「依頼だぁ?」
「そうだって。はい、そこどいて。ソファはお客さん優先だから」
「今いいとこだったのに」
「知らないし、てか一応部活中なんですけど」



部室創設当初に生徒会室から貰った古い2人掛けのソファに寝そべって本を読んでいた黒髪の男の身体を無理やり起こし、「そんなに読みたいならそっちに行って」と、部室の隅にある畳を指さす。この2畳もまた、ソファと同時期に茶道部からもらったものだった。



「2か月ぶりじゃない?依頼くるの」
「夏休み挟んだのもあるから、実際は1か月ぶりだけどね」
「久々に本来の部活感出てていいじゃん」

「あー、つうかクソ座り心地わりいな、この畳」
「座布団敷けばいいじゃんか」
「とって、椎花(しいか)
「ふざけんな。あんたの方が距離的に近いでしょうが」


畳の上に移動した黒髪の男は、「けちだな」などと文句を言いながら畳のすぐそばにある座布団に手を伸ばしている。

そんな彼を微笑ましく見ていた茶髪の男は、「俺もそこに座ってるね」と、本を読む黒髪の隣にそっと腰を下ろした。


自分の分の座布団をとる手間は私に任せようとするくせに、茶髪の彼には「使えよ」と座布団を1枚差し出している。彼が自分のことよりも人のために動ける男であることは、ずっと前から知っていることである。