それにしても、
「緒方くんは、何で持ってきてくれたの?」
「まだろくに読まれてもない本が破り捨てられるのは可哀想だろ」
本の心配かよ、と私は内心驚いた。
こいつやっぱり変なヤツだ。
「クラスの皆が、私をハブろうとしてたんでしょ? いいの? 緒方くん私の味方みたいなことして。きっとあんたもハブられちゃうよ」
「僕はとうにハブられてるよ。だから、ずっと寝たふりしてるんじゃないか」
「は?」
緒方の言葉に、私はさらに驚いた。彼がクラスで浮いていたことが驚きなんじゃない。あの時、五時限目、私は緒方が完全に眠っていると思っていた。だって、ちゃんと微かに寝息を立てながら規則的に一定の間隔で肩を動かしていたじゃないか。あれが演技? もし、彼が言うことが本当なら、私は完全に騙されていたことになる。
「ウソだよ、あんた完全に寝てた」
何だか悔しくて、私は一歩彼の方に踏み出して、眉根を寄せた。
「そう思いたいなら、そう思えば。ほら」
彼は私の視線による威嚇攻撃をものともせず、両手に持った全教科の教科書が押し込まれた、紙袋を二つ、私に突き出してくる。
「嫌だよ、そんな重いの持って帰りたくない」
「加藤さんのだろ」
「今まで教科書もノートも全部学校に置いてたよ。そんなの持って登校なんてしたことない」
「置いといたら、捨てられるじゃん。今日は持って帰れよ」
「五月蠅いな」
私は緒方の差し出した紙袋を受け取らないまま、その場から離れると早足で昇降口の方へと歩き出した。後ろの方で、「待てよ」と言って、彼が駆け出してくる足音がする。私は心の中でほくそ笑んだ。思った通りだったからだ。こいつはちょっと変なヤツだけど、やっぱり男だ。オスだ。ハブられてる私に親切にして気に入られたいんだ。なんのかんのと言って、見た目が可愛い私と仲良くしたいんだ。そしてあわよくばエッチなことしたいんだ。何のことはない。アブラゼミと何も変わらない。いや、一週間で死んでしまう彼らの方が、よっぽど切羽詰まってて追い詰められてて、カッコいいと感じる。そんな風に後ろを追いかけてくる男子の分析をし終える頃、私は昇降口にたどり着き、靴箱から自分のローファーを取り出していた。
「加藤さん、家はどこ?」
私に追いついた緒方が、息を切らして私の真横に立った。
「は? 男子に家とか教えたくないし」
「緒方くんは、何で持ってきてくれたの?」
「まだろくに読まれてもない本が破り捨てられるのは可哀想だろ」
本の心配かよ、と私は内心驚いた。
こいつやっぱり変なヤツだ。
「クラスの皆が、私をハブろうとしてたんでしょ? いいの? 緒方くん私の味方みたいなことして。きっとあんたもハブられちゃうよ」
「僕はとうにハブられてるよ。だから、ずっと寝たふりしてるんじゃないか」
「は?」
緒方の言葉に、私はさらに驚いた。彼がクラスで浮いていたことが驚きなんじゃない。あの時、五時限目、私は緒方が完全に眠っていると思っていた。だって、ちゃんと微かに寝息を立てながら規則的に一定の間隔で肩を動かしていたじゃないか。あれが演技? もし、彼が言うことが本当なら、私は完全に騙されていたことになる。
「ウソだよ、あんた完全に寝てた」
何だか悔しくて、私は一歩彼の方に踏み出して、眉根を寄せた。
「そう思いたいなら、そう思えば。ほら」
彼は私の視線による威嚇攻撃をものともせず、両手に持った全教科の教科書が押し込まれた、紙袋を二つ、私に突き出してくる。
「嫌だよ、そんな重いの持って帰りたくない」
「加藤さんのだろ」
「今まで教科書もノートも全部学校に置いてたよ。そんなの持って登校なんてしたことない」
「置いといたら、捨てられるじゃん。今日は持って帰れよ」
「五月蠅いな」
私は緒方の差し出した紙袋を受け取らないまま、その場から離れると早足で昇降口の方へと歩き出した。後ろの方で、「待てよ」と言って、彼が駆け出してくる足音がする。私は心の中でほくそ笑んだ。思った通りだったからだ。こいつはちょっと変なヤツだけど、やっぱり男だ。オスだ。ハブられてる私に親切にして気に入られたいんだ。なんのかんのと言って、見た目が可愛い私と仲良くしたいんだ。そしてあわよくばエッチなことしたいんだ。何のことはない。アブラゼミと何も変わらない。いや、一週間で死んでしまう彼らの方が、よっぽど切羽詰まってて追い詰められてて、カッコいいと感じる。そんな風に後ろを追いかけてくる男子の分析をし終える頃、私は昇降口にたどり着き、靴箱から自分のローファーを取り出していた。
「加藤さん、家はどこ?」
私に追いついた緒方が、息を切らして私の真横に立った。
「は? 男子に家とか教えたくないし」