加藤は僕の右手首をつかんだまま、倒れ込むようにして僕の胸の中にすっぽりとその細い身体を滑り込ませる。彼女の髪から甘い匂いがした。それだけで、僕の下半身は勝手に硬くなってくる。藤原のとはまるで違う。心臓が鼓動を早める。彼女は左腕を僕の首に回して「キスしてよ」と上目遣いで僕を見た。僕の右手が勝手に震えてスマホが床に落ちる。僕は制服姿の彼女の肩をつかんだ。彼女はもう両目を瞑って顔を上げていた。そっと唇を重ねる。彼女の唇はつるつるしていた。頭の芯がしびれたようになって、額が熱っぽくなる。怖くなる。初めて異性を抱いてキスした。それだけで心の殻に大きなヒビが入るのが分かった。僕はすぐに加藤から唇を放した。時間にして二、三秒。加藤はそんな僕を見て小首を傾げる。
「緒方のキス、短くない?」
「短いとダメなのか?」
「ダメじゃないけど、何か下手っぽい。キスというより唇をくっつけただけじゃん」加藤は不満げに自分の唇を撫でながら「もしかして、風俗女とキスするの嫌だった? 私、緒方から見て汚い?」
「そうじゃないよ。そうじゃないけど……」僕は彼女から目線を逸らして仕方なく、「初めてだし」と正直に答えた。加藤は僕の言葉を聞くと、一瞬黙り込み、そして僕の身体を両腕ごとぎゅっと抱いて、自分の身体を密着させて、僕の顔をより至近距離でのぞきこんだ。
「マジ? 今の、緒方のマジでファーストキスだったの?」
加藤は頬を紅潮させて興奮気味になっていた。
「悪かったな、二十四にもなってキスしてなくて」
問い詰めてくる加藤に、僕は憮然として答えた。
「じゃあ、童貞なんだ。こういうこと初めてなんだ。すごい。ヤバい。緒方がまだ童貞。ヤバい!」
「お前、馬鹿にしてるだろ」
「してないよ、何か嬉しい。緒方は変わってない。スーツよれよれで、くたびれて、今にも泣き出しそうな顔してコンビニで突っ立てたけど、緒方は変わってない。今でも一人で戦ってるんだ。私と同じように」
「緒方のキス、短くない?」
「短いとダメなのか?」
「ダメじゃないけど、何か下手っぽい。キスというより唇をくっつけただけじゃん」加藤は不満げに自分の唇を撫でながら「もしかして、風俗女とキスするの嫌だった? 私、緒方から見て汚い?」
「そうじゃないよ。そうじゃないけど……」僕は彼女から目線を逸らして仕方なく、「初めてだし」と正直に答えた。加藤は僕の言葉を聞くと、一瞬黙り込み、そして僕の身体を両腕ごとぎゅっと抱いて、自分の身体を密着させて、僕の顔をより至近距離でのぞきこんだ。
「マジ? 今の、緒方のマジでファーストキスだったの?」
加藤は頬を紅潮させて興奮気味になっていた。
「悪かったな、二十四にもなってキスしてなくて」
問い詰めてくる加藤に、僕は憮然として答えた。
「じゃあ、童貞なんだ。こういうこと初めてなんだ。すごい。ヤバい。緒方がまだ童貞。ヤバい!」
「お前、馬鹿にしてるだろ」
「してないよ、何か嬉しい。緒方は変わってない。スーツよれよれで、くたびれて、今にも泣き出しそうな顔してコンビニで突っ立てたけど、緒方は変わってない。今でも一人で戦ってるんだ。私と同じように」