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「緒方、布団敷きっぱなしじゃん」

 加藤は僕の部屋に上がると、開口一番そう言い放った。僕はタタミ半畳分もない玄関に彼女が脱ぎ散らかした茶色のローファーをそろえてやりながら「朝はぎりぎりまで寝てるから」と答えた。

「それに、すさまじく何も無いんだけど」

 加藤は紺色のソックスで、木目の印刷してあるフローリングを歩きながら物珍しそうに僕の部屋の中を見渡した。彼女の言うとおり、僕の部屋には必要最低限のモノしか無い。リサイクルショップで買った中古の白い冷蔵庫とノートパソコンが載ったローテーブル、それに元々部屋に備え付けてあったハンガーラックとエアコンに緑色の無地のカーテン。あとは百均で買ったペラペラのクッションがひとつだけだ。

「テレビは?」加藤が勝手に僕の布団の上に両足を投げ出して座り、尋ねた。
「これがある。でも基本見ないし」僕はスーツの内ポケットからスマ―トフォンを取り出すと、クッションに座った。ワンセグのアプリを立ち上げた画面をそばにいる彼女に見せる。彼女は一瞬だけ画面を見ると、すぐに僕の手首をつかんでスマホを、自分の眼前から遠ざけた。

「寝るだけの部屋だね。ネカフェ難民の私とあんまり変わらなく無い?」
「そんなことない。コンビニメシも食べれるし、超狭いけど湯船にも浸かれる。ネカフェはシャワーだけだろう?」
「そうだけど、私は仕事柄、毎日どっかのラブホ行くし。そこでお風呂にだって入れるよ」

 長めの前髪の間から、加藤の澄んだ瞳がのぞく。僕は胸が微かに痛んだのを実感した。もう無くなったはずなのに。時間薬が洗い流してくれた痛みのはずだったのに。

「緒方、しよう。私を抱いてよ」