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 結局、僕と加藤はファミレスには行かずに、中学時代一度だけ一緒に入った個人経営の大衆中華食堂に入った。加藤が「どうせなら、あの店がいいな」と言い出したからだ。のれんを下ろす直前に滑りこんだ形になったせいか、店主の親父は大層不機嫌そうだったが、僕達はそれに気づかないふりをして、ラーメン、チャーハンセット二人前に、餃子を一人前注文した。僕達以外客はいない。二人でカウンターに並んで座った。カウンターは指先で触れると油でぺとぺとした感触がして、醤油やラー油が入ってる小瓶には薄くほこりが積もっていて、放置された漫画雑誌も、表紙が折れ曲がり薄汚れていた。灰皿には煙草の吸い殻で山ができていた。神棚っぽい場所には彩度が高すぎる十四インチ程度の小型のテレビが置いてあり、ニュースやCMを時折ノイズを交えて垂れ流していた。

 あの頃、来た時と同じ、場末感満載の店だ。

 とても若い女の子を連れてくるような店じゃない。

 でも、加藤は無愛想な店主が出したチャーハンを、レンゲを逆手で持って「美味しい。ヤバい。メチャ美味しい」とむさぼるように食べていた。続いてラーメン二つと餃子一皿がすぐに出てくる。ラーメンは透明感のある茶色をしたありふれた醤油ラーメンで、餃子も冷凍食品と大差ない程度のクオリティーだった。それでも空きっ腹には染みるほど美味しかった。僕も夢中になってがっついてしまった。二人でシェアした餃子もきっちり半分いただいてチャーハンもラーメンも、十分くらいで完食した。隣の加藤も僕とほぼ同じタイミングで食べ終わり、カウンターの店主に向かって手を合わせて「ごちそうさまでした、美味しかった」と満面の笑顔を咲かして言っていた。終始愛想のなかった店主も、可愛い女子校生(コスプレだが)に褒められて気を良くしたのか「お嬢ちゃん、いい食べっぷりだったね」と笑顔になった。お冷やをお代わりして、僕達はその店を出た。当然、もうのれんは出てなかった。僕と加藤は軒並みシャッターが下ろされた寂しい商店街を白い息を吐き出しながら歩いた。たまにぽつんぽつんと等間隔で立っている街灯だけが、唯一の光源だ。

「緒方、緒方は今、どの辺に住んでるの?」

 加藤が長い髪を冬の風にたなびかせながら真横の僕を見上げて、尋ねた。