「どこに向かってるの?」

「ねぇ!」

「おーい!」

「え、まだ電車乗るの?」

「やっと着いたー?
えっ、また電車!?」

俺がだんまりを決めこんでいる間に高藤が疲れ果てている、いい気味だ。
「何にやにやしてるのよ」
学校から何駅も離れた駅からさらに電車を乗り換えて2時間かけて目的地まで着いた。
「ここって…」
「…俺がずっと行きたかった場所」
「…ちなみにチケットは?」
「…ここに2枚」
「君…そういうとこだよ」
「どういうとこだよ」
「褒めてんの!最高!」
ほら、行こう?と俺の手を握って駆け出す。
人に子供っぽいと言ったくせに…
子供っぽいのはどっちだか。
「ねね!次あのアトラクションのろ!」
「次はあれ!」
「あの絶叫乗りたい!水かかるやつ!」
さっきまでの疲れていた様子は微塵も感じさせないほど動き回っている。
余命幾許(いくばく)もないとか言っていたくせに
俺より体力があるじゃないか。
「はぁ、はぁ」
「な〜に?もう疲れてるの?だらしないわね」
高藤はため息をつきながら通常運転で毒づいたが
俺には返す気力さえなかった。
「ちょっ…1回休憩するぞ…」
「じゃあ、あそこのベンチ座ろ!」
高藤の提案に乗りベンチで一息つくことにした。
平日と言えど超有名テーマパークなので大学生や社会人だけでなく俺たちと同じように学校をサボってきているであろう制服を着た学生もいた。

「ふぅ…水買ってくる」
そう言って重い腰を上げようとすると
高藤は「私が買ってくるよ」と何かを企んでいるような笑みを含ませながら軽い足取りでどこかへ走っていった。自販機は反対方向なんだが。
と同時に小学生くらい、それよりも小さいだろうか、男の子が足元に近づいてきた。
「……」
無言で俺の隣に座ってくる子供は俺をジッと見てきた。
「……どうしたんだ?迷子か?」
疲れ果てながらも今できる最大限の笑顔で話しかける。
すると勢いよく子供の目からは涙が溢れ出した。
「うわぁぁぁん!
おとーさんどこぉぉぉ!」
「おい、いや、泣かないで!一緒に探してあげるから、な?」
俺らしくも無い口調で怖がらせないように話す。
この子が言うには父親と2人でここに来ていたらしく歩いているうちにはぐれてしまったそうだ。
そこで父親と外見が似ていた俺に近づいてきた、ということらしい。

「ほら」
俺がそう言うと
?、と首を傾げる。
「肩車の方が見つけやすいだろ」

「……うん!」
パァっと明るい笑顔になり、男の子は元気に頷いた。

「なぁ、名前は?」
「ゆーと!」
「ゆうとがお父さんと歩いてたのはどの辺だ?」
「んっとね…
おとーさんとおみやげやさんのとこあるいてたの。
そしたらね、かっこいいおもちゃがあったから
ぼく、みにいったの。
でね、おとうさんのところもどってもういっかい
てつないだら、ちがうひとだったの…ひぐっ…うわぁぁん」
自分に起きた状況を話しているうちに寂しくなってしまったのだろう、ゆうとはもう一度泣き出してしまった。

「…おとーさんがわるいんだ。
おとーさんがゆうとからはなれるから。もうしらないもん!

おとーさんなんか、し「ゆうと」

俺がゆうとの言葉を止めるように名前を呼ぶとビクッとした様子が感じとれた。
思ったよりも強い口調になっていたらしい。
それでも止めた方がいい、そう思った。

「それ以上は絶対に言っちゃダメだ。
お父さんはきっと今もゆうとを探してる。
それに、1度ゆうとの目の前からいなくなってしまったらもう二度と会えないかもしれないんだぞ。

どんなに心の中で思っても、その先は言っちゃいけない。生きたくても、生きられないやつはいるんだ」
あいつみたいに。

ふと、上を見上げるとゆうとが先程よりも酷く泣きじゃくっていた。
「え、だ、大丈夫か!」

「ふぇぇ、ゆーと、もう
おとーさんにあえないの?やだよ、おとぉさぁぁん!」

「そ、そうじゃなくて。大丈夫だ。一緒に見つけような」

普段は子供を避けているので(潰しそうで怖いからな…)、
慣れていないながらも必死になだめ、ようやく元気が戻ってきたので、父親探しを再開する。

「ゆうとのおとーさんね、すごいんだよ!
おいしゃさんでね、いつもいろんなひとのびょうきをいっぱいなおしてるの!

でもそれでいそがしいからたまにしかいっしょにあそべないんだ。
きょうはおやすみだからね、ここにつれてきてくれたの!」

「そうか、じゃあ自慢のお父さんだな」

「うん!」
そんな話をしていると突然ゆうとが叫んだ。

「あ、おとーさんだ!おとーさーん!」
勢いよく俺の上から降りて一目散に叫んだ方向目掛けて駆け出していった。

「おい!走ると転ぶ、ぞ」
ゆうとに届くよう大声でそう言いながら、
ゆうとが走っていく方向に見えたのはゆうとのお父さんらしき人物と、高藤だった。

気づいたらゆうとを追い越して、その場に駆け寄っていた。
「高藤!大丈夫か!おい!」
高藤は倒れていた。
顔色は真っ青になっていて、

手からは容器からこぼれた真っ赤なドリンクが飛び散っていた。
入口に書いてあった唐辛子ジュースだろうか。
あの何かを企むような顔はこれのためだったのか。

いや、今はそんなこと考えている場合じゃない。
「君は、この子の知り合いかい?」
「はい、ゆうとくんのお父さんですか」
「!?そうだ。…ゆうと!」
ゆうとの父親は周りを見渡してゆうとを見つけた。
ほっ、とまゆをさげ安心した顔で名前を呼んだ。

「おとーさん!」
「あぁ、良かった。ゆうと」
手を大きく広げ勢いよく走ってきたゆうとを強く抱きしめたが、
即座に真剣な顔に変わった。
「ゆうと、今度はいい子で待てるな」
「うん」
それに答えるようにゆうとも真剣な顔で深く頷いた。

「この子が崩れるように倒れたんだ。
この子になにか持病はあるかい?」

「あるとは聞いていますが詳しくはなにも」

「そうか。わかった。
これ以上は私にもどうにもならない。
あとは専門医に任せよう。

救急車を呼んである。君はこの子に付き添って病院まで行ってくれるか?

私は、子供も連れているから」
ゆうとのことも考えながらの迅速な判断。
ゆうとが言っていた通りの立派な医師だな。

「分かりました。ありがとうございます」
俺はその後、すぐに来た救急車に乗って病院まで一緒に向かった。救急隊員への説明まではゆうとの父親がいてくれて、本当に助かった。
ゆうと親子に笑顔で手を振って、
救急車へ乗り込んだ。

心は到底穏やかにはいられなかった。

あの時煙草を止めていれば。
色々な場所に遊びに行くのを断っていれば。
俺が、こんな所に連れてこなければ。
何かが変わっていたのかもしれない。

処置を終えて、静まり返った病室で目を閉じている高藤。
不安でいっぱいだった。医者は特に異常はないといったが。持病が良くなった訳ではない。
もう、目を覚まさなかったら。
それこそ、ゆうとに言ったように、
もう二度と笑う高藤に会えなかったら。
「あれ、松谷くん」
は?
「…お前、起きんのはえーよ」
「え〜?何それ。死んじゃったらどうしようとか思わないわけー?」
「はぁ。全く思わないな。
もう起き上がって大丈夫なのか」
「ねぇ!売店でノート買ってきてよ!あとペンも!」
こいつは本当に死にかけたって、
人の話を聞かないな…

「ノートとペンなんかどうするんだ」
言われた通りに買っては来たものの。