翌朝、カーテン越しの日差しで目を覚ました。
 気づくなり僕は勢いよく起き上がると、カーテンを開けた。
 そこには、たしかに青空が広がっていた。うっすらと雲は浮かんでいるけれど、日差しをさえぎるほどの厚い雲はない。晴れか曇りなら、間違いなく晴れだと表現できる空だった。
「晴れた……」
 思わず口元がほころぶ。僕は窓際のてるてる坊主をそっと外すと、称えるように指先で軽く頭を撫でてから、ローテーブルの上に置いた。

 朝の天気予報によると、昼過ぎまでは晴れ、夕方以降雲が広がり、夜には雨が降りだすだろう、とのことだった。
 どうやら前日からの雨の予報が、少し後ろへずれたらしい。万々歳だ。昼過ぎまで晴れてくれるなら、それでいい。

 いつも使っているボディバッグではなく、大きめのバックパックを背負って、僕は家を出た。昨日買ったオムライス形バッグ、それから、まったく手をつけていない三十万の入った茶封筒を入れて。
 春野に借りた野球漫画も持っていこうかと思ったけれど、さすがに重かったのでやめた。返すのは、また後日にすればいいと思った。機会なら、いくらでもあるはずだから。

 待ち合わせ場所の駅へ向かって歩いていると、自然と気持ちがはやって早足になった。
 早く春野に会いたかった。早く会って、今日いっしょに過ごす時間を、一秒でも長くしたかった。

 だけど駅に着いて、今日も先に待っている春野の姿を見つけたとき、なぜか一瞬、僕は帰りたくなった。このまま彼女に声をかけず、踵を返してしまいたくなった。
 あんなに待ち望んでいた今日を始めるのが、怖いと感じた。
 ――最後だと、昨日、春野が僕に、はっきりと告げた今日を。

 思わず足を止め、駅の数メートル手前で立ちつくしてしまっていたら、春野のほうが僕を見つけた。
 途端、ぱっとその表情を輝かせ、彼女は片手を挙げると、
「倉木くん!」
 うれしそうに名前を呼びながら、こちらへ駆け寄ってきた。
 白い襟のついた赤いトップスに、膝まであるデニムのタイトスカートを穿いた彼女は、満面の笑みで僕の前に立つと、
「晴れたね!」
 開口いちばん、そんな弾んだ声を上げた。
 それがあまりにうれしそうだったから、つられるように、僕の顔も笑顔になる。
「……うん、晴れたね」
「昨日の夜まで天気予報微妙だったから、心配してたんだ。雨の日用のプランも考えてたんだけど、晴れたし、当初の予定どおりいけるね!」
「当初の予定って?」
 例によって、今日の行先については僕は知らされていない。ピクニックに行くということだけ、昨日聞いていたけれど。
 だから僕が訊ねると、春野は弾けるような笑みのまま、
「動物園!」
 大きな声で、けっこう予想外の答えを返してきた。