***
その日を境に放課後の練習と朝練は、さらにハードになった。
もちろんそれに不満を持つやつはいない。
次の大会では、優勝を目指しているからこそだ。
「小牧、おはよー」
教室へ入るなり、よくつるんでいる友達がそばへ寄る。「おはよ」返事を返して自分の席へ座ると、
「なぁなぁ小牧、レギュラー決まったんだって? すげーじゃん。おめでとう!」
突拍子もなくそんなことを告げられるから、「あ、ああ…」薄い反応しかできなくて。
その代わりに、盛大な声でそんなことを言ったからクラスメイトの耳に入り、あっという間に俺の席の周りには人だかりができる。おもに野次馬ばかりだが。「すごいすごーい」「小牧くん、おめでとう」などどみんなに祝福される。
嬉しいやら恥ずかしいやら、居心地が悪くて落ち着かない。
数日前までの日々と打って変わって、会話の中心に持ちはやされる。
つーか、そもそも、
「なんで知ってんの」
レギュラーに決まったと知ってるのはバスケ部のみ。俺はまだ誰にも言っていない。親にさえ。
「俺の情報網なめんなよ。そんなことならちょちょいのちょいだ」
「はあ……?」
ちょちょいの、って……どこの情報網だよって心の中でつっこんだ。
「そんな細かいことは気にするなよ。それよりも今はレギュラーの話しよーぜ!」
なんて軽い気持ちで踏み込んでくるから、
「やだよ」
「なんでだよ」
「……なんでもだよ」
俺のプライベートに関わることだ。そう易々と話せるもんか。
「ちえー、小牧のケチ!」
するとしばらくして諦めたのか、唇を尖らせて拗ねる。
これだけクラスメイトが集まる中、俺の悩みを打ち明ける気にはなれない。だから悪いな、そう思って口を固く閉ざした。
「まぁいいや。とにかくレギュラーに選ばれておめでとってこと言いたかっただけだし!」
あっという間に切り替わる表情に頭が追いつかなくなりそうになるが、なんとか言葉を拾い上げる。
「おー……ありがとう」
あまりにも真っ直ぐすぎる言葉に嬉しさよりも羞恥心の方が上回って、照れくさくなった俺は鼻先をかいてそっぽを向いた。