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昼休み、早めに昼飯を食べ終えると体育教官室へ向かった俺は、盛大に緊張していた。
あー、気が重たい。できることならこの扉に入りたくない。でもここでくすぶっていても何も始まらない。すーはーと呼吸を整えて、扉をノックする。
「二年の小牧です。監督、ちょっといいですか」
声をかけると、中から「おー入れ」と声が聞こえる。
指先までもが心臓のようで、敏感になり、緊張して手に汗握る。
「失礼します」
ドアをスライドさせて、教官室へ入る。
そこには監督一人しかいなかった。
──話すなら、今だ。
「あのっ、レギュラーの話…なんですけど」
一気に緊張が押し寄せて、足先が震えるような気がした。
監督の顔を面と見ることができなくて顔を少し下げる。
今さらだと思うかもしれない。さらに呆れられるかもしれない。
けれど、そんなのもう怖くはない。
俺は少し前の俺じゃない。自分を奮い立たせるようにぎゅっと拳を握りしめて。
「……この前はレギュラーを降りたいって言ったんですけど……もう一度、自分にチャンスをもらえないでしょうか!」
大きく頭を下げた。
この際、羞恥心や罪悪感は全部忘れる。
忘れて、全部を謝罪に込める。
「自分から降りたいって言って場の空気を下げるようなこと言って都合のいいこと言ってるのも分かってるんですけど……」
でも、でも俺──
「どうしてもやっぱり大会に出たいんです。レギュラーとして! みんなとプレーしたいんです!」
ずっと忘れていた。
仲間とプレーしている時間は、すごく楽しいんだと。勝てたときの達成感は半端なくて、もっともっとって欲張りになり、上を目指したくなる。
「俺にもう一度、チャンスをください……!」
何度だって言おう。
何度だって頭を下げよう。
それが今、俺にできる唯一の素直だ。
「チャンスってなんだ」
しばらくして突き放すような言葉を告げられるから、え、と困惑して頭をあげると、おもむろに立ち上がり、窓の方へと向かう。
「小牧は一体何を言ってるんだ。俺にはさっぱり分からんな」
監督の口から落ちた言葉は想像以上に冷たいものだった。
やっぱりもう無理なのかな。監督、すごく怒ってるみたいだし……
けれど、もう諦めたくない。
「今更かもしれないんですけど、ほんとに俺……」
──もう一度、頑張りたいんです。
そう言葉を紡ごうと思った、そのとき。