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 一日一日過ぎるたびに俺の不安は日に日に大きくなっていった。

 母さんからの勉強の圧力や応援という名のプレッシャーが俺の精神を乱して削ってゆく。

「小牧ー、少し遅れてるぞー!」

 アップ中、監督に注意を受ける。

「小牧ー、フォーム崩れてるぞ。気をつけろ」

 シュート練習中、なかなかゴールが決まらなくなる。

 そのたびに、

「すみません、気をつけます……!」

 声を張って修正しようと心がけるの繰り返しだった。

 きっとレギュラーの誰よりも一番、注意を受けている気がした。

 ──このままではダメだ。

 焦りと不安が俺を襲う。

「あのっ、今日少しだけ残って練習してもいいですか?」

 部活終わり、監督に確認をとる。

 このままでは俺が足を引っ張ってしまうことになる。人よりも劣るなら、人よりも練習しなければならない。

「いいけど、大会前だから怪我しないように気をつけろよ。あと鍵はしっかりかけて帰るようにな」

 俺は、人よりも一歩も二歩も後ろにいる。いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。

 だから同じ練習量じゃダメなんだ。

 そうして一人残った体育館は、静寂な空気に包まれていた。代わりにあるのは、ボールの寂しげな弾ける音だけ。

 シュート練習をしたせいで、あちらこちらにボールが放置される。その数は二十を超える。

「あー、くそっ……」

 空になったボール入れを見て、やるせない怒りを感じながら散っているボールを回収する。

 バスケジュースがきゅっきゅと音を鳴らす。その音はたった一つ。まるで俺の後ろをついてくるように絶え間なく鳴り続く。

 そしてまた回収すると、シュート練習を始めた。

 ──ガシャーン。

「くっそ……!」

 音を立てて、弾け飛ぶ。

 鈍い音がタンタンタン…と落ちる。

 ゴールに狙って投げても、入らないときがある。一〇本中三本は外す。それはバスケにとって致命的。レギュラーに選ばれたからには全て入れなければ話にならない。

 そして、焦れば焦るほどボールは言うことを聞かない。

 的に外れて、床に落ちる。

「なんで、だよっ……」

 腕で額の汗を拭いながら、苛立ちを声にのせる。

 頭の芯がチリチリと怒りを彷彿させる。

 手に持っていたボールにその感情がのるように、

「なんで…俺が、選ばれたんだよ……っ」

 片手で思い切りなげたボールは、壁に勢いよくぶつかった。

 苛立ちと不安が爆発した。

「なんで、俺が……!」

 力を無くしたようにその場に棒のように立ち尽くす。