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 小春日和とも呼べる穏やかな四月上旬。

 部活終わりに監督がみんなを集める。その表情は、いつになく真剣で、周りを漂っている空気もどこか重たくて。

「今から今度の試合に出るレギュラーを発表するから、名前呼ばれたら返事するように」

 ゆっくりと口を開いた監督からは、そんなことが告げられる。

 おかげで体育館の中には緊張が広がった。あまりにも静寂すぎて、息を飲む音さえも聞こえてしまいそうだ。

「じゃあまずは三年からいくぞー」

 ──藍原、神崎、と次々と三年の名前が呼ばれていく。そのたびに「はいっ!」と芯のある声が体育館にこだます。

 俺が通っている高校は、バスケの強豪校と言われている。だから、三年間通っていてもほぼベンチで終わる人もざらにいる。そして一年だからといって贔屓されるわけではなく、上手ければ一年からもレギュラーに選ばれる。

 要は結果を残しさえすれば、学年なんて関係ないのだ。

 俺は一年の頃、一度も選ばれることはなかった。それだけ周りのレベルが高いということだ。が、その方が負けずと努力をするようになる。レベルが高ければ俄然俺のやる気は上がっていった。

 将来、プロ選手を目指しているかといえばそうではない。ただ、バスケをするのが楽しくて、純粋にバスケが好きなだけだ。

 高校二年生の俺は、将来の話なんてまだ考える余裕なんかない。

 親は、いい大学に行って安定した職に就くことを望んでいるみたいだが、今は俺の意見を尊重してくれている。

 ──高校で結果を残さない限り大学ではバスケを辞めることを条件に。

 だからこそ今回俺は、結果を残さないといけない。そうじゃないとあとがないからだ。もう高校二年になった。あと一年しかない。
 なんとしても結果を残して親を認めさせる、そう思って日々つらい部活に明け暮れた。やることはやった。あとは運のみだ。

「次に二年を発表するぞー」

 俺たちの学年が回ってくる。山田、小池、と淡々と名前を呼び進める。緊張のあまり心臓の音がダイレクトに聞こえて、手に汗握る。

「そしてラスト──」

 頼む、どうか。次、呼ばれてくれ、心の中で呪文のように何度も何度も唱える。

 どきどきと全力疾走する鼓動に俺は、ぐっと固唾を飲んで監督の声に全神経を集中させる。