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 それから公園に行かない日々が続いた。
 千聖くんと会うこともなくなり、また一人で過ごす日々が戻ってくる。

 これでよかったんだ。これが私の生活なんだ。そう思うけれど、なぜか心が寂しくて。

 どうして泣きたくなってしまうんだろう。

 学校が終わった十六時過ぎ、いつもの公園ではなく見知らぬ公園。とはいってもベンチとブランコがあるだけの簡易的な広さのそこで時間を潰す。
 ここがどこだがなんて分からない。家ではなく反対方向へ赴くままに歩いてここへたどりついたからだ。それから二十分、一人でベンチで座り込んでいた。

「──あれ、高野さん?」

 きょとんとした声色が聞こえてきた。

 誰だろう、と顔を動かすと、公園の入り口で私に声をかけてきたのは。

「……原さん」

 バイト先の先輩だった。

 私を見てニコリと微笑むと、

「高野さん、家こっち方面なの?」

 真っ直ぐ進みそうだった足を軌道修正して公園の中へ入って来る。

「いえ、そういうわけじゃ…」

 どうして会いたくないときに限って誰かと会ってしまうんだろう。心の中はひどく動揺して、今にも雨が降りそうな曇り空。

「高野さんとバイト以外に会うって初めてだね。私、ここの道いつも通るんだけど、初めて高野さん見かけた」

 私のことなどおかまいなしにしゃべりだす原さんは、バイトのときと変わらず笑顔。普段からこれだけ明るければ、接客業なんておてのものだ。

 だから、原さんも私とは住む世界が違う人。

「……わ、私、帰ります」

 かばんを肩にかけて慌てたように立ち上がるが、

「ねえ、高野さん。何か悩んでるの?」

 ふいをついたように尋ねられたその言葉に、ぴたりと足が止まり身動きがとれなくなる。

「この前、コンビニに知り合いが来てから様子がおかしくなって、それからよそよそしくなったから何かあったのかなと思ったんだけど」

 背中に冷たい風があたり、鼓動を揺らす。

 かばんの紐をぎゅっと握りしめて、下唇を強く結んで。

「き、気のせいじゃないですか?」

 くるりと振り向いて笑って誤魔化した。

 明るく振る舞えば、きっと何事もなかったかのように時間は過ぎ去るから。

 けれど、原さんは「ううん」と首を横へ振って、

「あのあとから急に高野さん、元気がなくなって。どうしたんだろうって思ったけど、声かけられなくて」

 さっきまでの笑顔はいつのまにか消えていて、代わりに原さんが浮かべていた表情は曇り空だった。