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「死ぬつもり?」

 屋上から景色を眺めて現実に打ちのめされていると、不意に後ろの方で声がする。驚いて、恐る恐る振り向くと、そこにいたのは見知らぬ男の子だった。

 色素の薄い髪の毛が風にふわりとなびく。顔のパーツは全て整っていて、背も高く、何もかもが完璧に見えて。私は、目を逸らすことができなかった。

 彼が着ているブレザーの刺繍が同じ色だから、私と同級生みたい。

「それとも……」

 私を見つめて固唾を飲んだあと、

「……すでに幽霊とか?」

 少し顔を青ざめる表情が視界に映り込んだ。

 死ぬつもり、って……。会話もできて姿もはっきり見えているはずなのに、どうして私のことを〝幽霊〟だなんて思うんだろう。

「……ちゃんと生きてますから」

 止まっていた時間を進めるように答えると、そっか、と安堵したように声も表情も柔らかくなり、そばへ寄る。私の隣でぴたりと止まる彼の口からは白い息が現れて、そして消える。

 春から冬へと過ぎ去って、季節は十二月に入った。空気はしんと冷えて、息を吸うと肺がその冷たさに驚いてぎゅっと縮まり、息を吐くと、白い息が浮かぶ。それは一秒にも満たない時間であっという間に空気に溶けてなくなる。

 今日は一日中曇りだったせいか、気温がうんと低く感じる。体感温度だと十度にも満たないだろう。

「じゃあどうしてここにいたの?」

 ふいに尋ねられて困った私は、「それは」と言って口をつぐんだ。ここにいた理由なんて言いたくなかったから。

「何か悩みでもあった?」

 彼は、さらに質問を重ねた。それも絶対に答えられるはずのない問いを。

 だから、私は。

「……べつに理由なんてないよ。ただ、ここからはどんな景色が見えるのかなって少し思っただけ」

 半分の真実と、半分の嘘を含ませて。そうすれば、それらしく聞こえると前に何かの本で読んだことがある。全てを嘘で言ったとしてもそれは嘘にしか聞こえない。だからあえてほんの少しの真実をプラスするの。

「それで何か見えた?」

 私の答えを信じた彼はさらに言葉を重ねる。

 何か変われるかもしれない、そんな期待をした私が間違いだった。
 ここへ来たって何も変われないし、希望だって生まれてこなかった。

 〝何か〟なんてなかった。

 ただただ、この世界に絶望する。

「ううん、特にはなにも。ただ、いつも見ている景色がそこに広がっているの。それだけだった」

 あまりにも初対面の男の子に話すことではなかったと、言い終えた瞬間思って目線をわずかに下げる。