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 妹が受けた受験は、見事に合格した。

 あれほど嫌悪感をあらわにしていた私だったけれど、今は素直に妹を祝福してあげることができた。
 そうしたら妹は嬉しそうな顔をして笑いながら泣いていた。

 おそらく、相当のプレッシャーと闘っていたのだろう。あの頃の自分がそうだったからと、重なる部分があった。

 けれど、一番泣いていたのはお母さん。

 私と妹が顔を見合わせて笑ってしまうくらい、お母さんは大人気ないほどに泣いていたのだ。


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「あと一ヶ月もすれば新年度になるね」

 バイト中、ふいに原さんがそんなことをポツリとつぶやいた。

「もうそんな時期なんですね。早いなぁ」

 あれほど苦しくて長かった時間が、千聖くんと出会ってから一定のリズムを刻むようになった。

 春、四月は別れと出会いの季節。

 私は、あまり好きではなかった。それは、やっぱり受験に失敗して行きたくもない高校に行くハメになったからで。

 けれど、今はそれほど嫌いだと思わなかった。

 今の高校に入学したからこそ、千聖くんと出会えたわけだし。

「クリスマスもお正月もあっという間だったなぁ。ほんとはもっとゆっくりしたかったのに!」

 お客さんがいないとはいえ、かなりのため息に、思わずクスッと笑ってしまった。

 こうやって自然と笑えちゃうのは、ほんとに久しぶりすぎて。だけど、人間らしくなれたのかなって少し嬉しくて、頬が緩む。

「──あっ、そういえば、クリスマスに美月ちゃんのこと迎えに来てくれた男の子とはどうなったの?」

 なんの脈絡もなく尋ねられたそれに困惑した私は「へっ?!」素っ頓狂な声を漏らしてしまう。

「なんか前に一度相談に乗ったことあったでしょ。あのとき美月ちゃん、彼と仲直りしたいとか言ってたよなぁと思って」

 そうだ、私。原さんに相談したんだった。

「えーっと、それが……」

 だからといって、自分のプライベートをオープンにできるわけではないのだけれど。原さんには今までたくさんお世話になっているから。

「……つ、付き合うように、なりました……」

 自らこういう話題を提供するのがくすぐったくて、すべての内容を弾いて結末だけを言ってしまった私。

「え、付き合った……?」
「……は、はい」

 なにを隠そう。私と千聖くんは、〝恋人同士〟になったのです。