趣味は何? と聞かれれば迷わず「ビリーブの推し活!」と答える私、安久沼(あぐぬま)あおい。18歳の大学1年生。
 『コレだから推しにハマってる人は~』とバカにされたくなくて、見た目だけでも良くしようと暗めな茶髪のミディアムパーマにイメチェンした。

 そんな私、安久沼は3年前から4人組の男性ユニット『ビリーブ』というアーティストにハマっている。友達の楓が高校1年生の時にビリーブのトーク握手会に行きたいと言い出した事がキッカケだった。

 当時まったくもって興味がないうえに誰だか分からないその人達の事を楓から詳しく説明される。話半分で机に突っぱねる私に、『とりあえずこの動画見て!』と、強引にスマホで動画を見せられた。
 ビリーブは4人組の男性ユニットという事をその時知り、4分23秒、その動画を目を凝らして見る。メインボーカルは真ん中の金髪の男の子らしく、所々残りの3人も歌っている。

「所属事務所はあの大手”セラム”だよ!」
「へー」
「昨日いきなりツイッターで告知されたんだよ!」
「ふーん」
「1カ月前に結成されたの!」
「ほーん」

 そっけない返事ばかりする私に我慢をきらしたらしい楓は、『あおい様、一生のお願い!』と私に頭を下げてきた。そんな簡単に頭を下げられたら断るに断れず、まあ良いかという軽い気持ちで楓に問いかける。

「そのトーク握手会はいつなの?」
「今日の放課後!」

 今日の放課後!? いくらなんでも急すぎる。でも楓がこれだけお願いしてくる事も珍しいし、本当に行きたいんだろう。『分かった』と返事をすると楓の泣きそうな顔はたちまち明るくなった。

「あおい! 早く! アスカくんに会えなくなっちゃう!」
「ちょっとまって!」

 放課後になり、急いで教科書やらノートを学生鞄に突っ込む私を差し置いて、楓はバタバタと教室から出て行ってしまった。だから待ってってばー!!
 『早く早く!』と変わらず急かす楓は、もう自分の自転車のサドルに乗っている。私も急いで自転車のロックを外し、サドルに跨がる。
 二人で自転車を猛スピードで漕ぎまくり、なんとか時間内にイベント会場に着く事ができた。イベント会場といっても有名なCDショップを貸し切って数時間だけ行われるらしい。