慣れというのは恐ろしいもので、たとえどんなに酷い言葉でも、何度も言われれば免疫がついてしまう。
 
「大嫌い!」
 少女がヒステリックな声を上げて、手にしていたお椀を投げつけてきた。私の白衣に、トマトソースが飛び散る。
 これ洗濯してもおちないよな。
 鮮やかな朱色に染まった布を見て、ぼんやりとそんなことを思った。

 怒りで顔を真っ赤にした少女は、明確な殺意を感じさせるほどの鋭い目で私を睨んでいる。今の彼女には何を言っても無駄だろう。

 近くにあったタオルで床に落ちたお椀の破片を拾い、私はその病室を出た。