カトリーヌはその日、いつも通り森の中に響き渡る鳥のさえずりで目を覚ました。小屋の中のベッドの中で、彼女は朝のひんやりとした冷気に少し震えていた。昨日の夜遅くまで本を読みふけっていたせいか、少し眠い。まだもう少し寝ていたかったが、草木についた朝一番の露を、小瓶いっぱいに集めないと、彼女の主人である魔女のパーリヤに怒られてしまう。それは城で使う魔法の儀式の時に必要な物だった。

 パーリヤは強力な魔法を使う城専属のお抱え魔法使いだった。この国では王よりも、魔法使いが実権を握り、魔法の力が重宝されていた。一方、細身で焦げ茶色のおさげをした十七歳のカトリーヌは、小さな頃、パーリヤがどこからか連れてきた少女だった。不思議なことにカトリーヌは、その頃の記憶が少しもない。気がついた時には、魔女の住む塔の近くに、小さな小屋をあてがわれ、来る日も来る日も、魔法で使う下準備を手伝わされていた。
 そんなカトリーヌの唯一の楽しみは魔女の塔にある図書室の本を、少しずつ読むことだった。本を読んでいると、いろんな世界を知ることができた。ここしか知らないカトリーヌにとって、よその世界は魅力的だった。その一方で未知の世界に足を踏み入れることは、彼女の臆病な心が許さなかった。外には楽しい世界があるかもしれない。でも恐ろしい魔物や、悪者もいるかもしれない。そんな者と対峙するなら、ここにずっといた方がましだ。そのせいで、カトリーヌは魔女以外の人と接したことはなかった。
人には女性と男性がいることを本で知っていたが、実際に男性を見たことはない。また大人と子供の区別もよく分からなかった。それでも、どうやら魔女のパーリヤは大人で、自分はどちらかというと子供に近いものらしい。そして本には、子供は大人の言うことを聞くものだと書かれてあった。それを鵜呑みにしたカトリーヌは、パーリヤの言いつけを忠実に守っていた。