7、僕はユキポン、たとえ消えようとも


 僕は、未奈ちゃんの膝の上で祈ることしか出来なかった。

 ……あれは、マボロシじゃない。


 夕立後、一緒に見た不思議な夕日。
 ハラハラしながら飲ませてくれた、ミルク。
 飲んだのは僕だけど、僕以上に嬉しそうだった未奈ちゃんの笑顔。
 一生懸命作ってくれた『にくきゅうまる』。
 いっぱい作って遊んでくれた手作りおもちゃ。
 病気になった時、抱いて病院に連れてってくれ他時に聞いていた心臓の鼓動。
 最後まで一緒にいてくれて、こぼれ落ちた涙。


 いつも一緒だった。

 いつも同じ気持ちだった。

 それは、僕がなくなってからも同じ。
 僕は未奈ちゃんの心の中で、いつも一緒だったから、いつも同じ気持ちだったから……




 だから、分かるよ辛い気持ち。

「……僕は消えたっていいにゃ」

 未奈ちゃんががそれを望むなら、僕も一緒に消えてしまおう。
 でもそれまでは僕もそばにいる。
 相手にされなくても、役に立てなくても、それでもそばにいる。
 そして、一緒に消える。

「ごめんにゃ、何もできにゃくて」

 でも、お願い。
 未奈ちゃんは自分を取り戻して。
 僕は祈ることしかできなかった。


「!!」

 未奈ちゃんの手が背中に触れる。

「未奈ちゃん」

 やがて、雨の音が遠のいて、周りが急に暗くなった。そして暗闇にピアノが浮かび、そのピアノの向こうからピアニストの彼が静かに現れた。カットソーにベージュパンツ。細身でスラリとした背がまるでモデルを思わせる。

 彼は気取らずピアノの前の椅子に座ると、一呼吸置いて、鍵盤を見つめていた。

 全ての音を飲み込んで静寂がすべての動きを押さえつける。
 刻が止められたように動けなかった。

「ユキポンどの。まずいでござるぞ」
 ……逢魔時。

 僕は、彼のマボロシを飛びかかって引っ掻いてやろうと思ったけど、静寂に押さえつけられた体が動かない。上を見ると、未奈ちゃんが彼をジッと見つめていた。

 クソックソッ。
 もう一度、動こうと頑張ったけど動けなかった。