3、俺、首輪

 倉辻未奈様が、怯えた様に手を引っ込める。


「だから言っただろ。しゃべるんじゃないって」
 俺は首筋から、小声でユキポンにささやいた。

「どうすんだよ。ユキポン」

 ちょっと興奮しているユキポンが後ろ足で首筋を掻いた。

 ……イタイ、イタイ。爪が俺に当たる!

 ユキポンが気合を入れて、未奈様に向き直った。

「あのー、ユキポンでいいにゃー」

「ヒッッ! やっぱりしゃべった」

 ユキポンが一歩近くと、一歩下がる未奈様。

「……何?……誰?」と怯えた様に呟く。

「僕にゃー、シロユキにゃー、ユキポンにゃー」

 彼女はさらに一歩後退さった。

「……違う。ユキポンはそんなこと言わない」

「……」

「猫は喋ったりしないの」

「……あのー、にゃー」

「誰?」

 未奈様のするどい一言で、ユキポンの声は遮られた。


 ……かーー!そう来ましたか。

 俺は手を額に当てて天を仰いだ。手も額もないけれど。首輪だから。
 どうすんだよ。これ。


 そのまましばらくユキポンと未奈様は見つめ合っていた。


「どうしよう?」


 ユキポンの呟きが聞こえる。
 何も考えてなかったらしい。
 くーーー、なんともユキポンらしい。
 かーーー、そしてなんかダメらしい。

 ……どうする、どうする、どうする、俺。

 よし、俺がしゃべって説明するか。
 いや、そりゃねえな。首輪がしゃべるって猫よりやばい。
 うーーーん。

「おい、どうするよユキポン!!」


「いいからタオルで髪拭くにゃ。風邪ひくにゃ」
 ユキポンは俺の言葉を無視して未奈様に話しかけた。

「……」

 未奈様が怖がって、また一歩さがる。

「もういいにゃーーーー」

 ユキポンはそう言うと何歩か下がって、後ろを向いてふて腐れた。
 眉間にシワが寄っている。

「おーい、ヤケを起こすな。な、だから、猫が言葉をしゃべるんじゃないってあれ程言っただろう」
 俺はそっと囁いた。

「だってしゃべれるんにゃもん。未奈ちゃんの心の中だから通じるんにゃもん」

「だから、ニャーニャー言っとけば良かったんだよ。猫なんだから。猫がしゃべるなんてありえねえ」

「うるさい。首輪のくせに」

「……」

「あーあ、普通、もっと感動的に喜んでくれたりしにゃい? にゃんだよ。にゃんだよ」

 そういうとユキポンはクルッと丸まって、本格的なふて腐れに入った。

「フーー」と癖で低い声が漏れる。

「おい、どうするんだよ。このままだと俺たち消えちまうかもしれないぞ」

「フーー、フーー、フーー」

 ユキポンの眉間のシワがますます深くなる。





 その時ユキポンの頭の上にタオルが優しくフワッと掛けられた。


 !!!!!


「ごめん。やっぱりユキポンだ。フフ」

 俺はユキポンと一緒に優しくタオルで包み込まれて持ち上げられた。

「すぐ不貞腐れるんだから」

 そう言って未奈様は顔の前までユキポンを持ち上げた。