1、僕
また、雨が激しく降り出した。
何回目の大雨だろうか。
どれぐらい雨の日が続いているだろうか。
やまない雨に心が痛む。
僕は窓辺に座り、外をじっと見て考えていた。
僕に何ができるだろうか? と。
「なに もの思いにふけってんだよ」
ふいに首元で声がする。
「うるさいにゃー」
窓に反射する自分の姿。
白い毛並みに黄色い目。
小さな白猫の姿。
これが僕の姿。
倉辻未奈、彼女の思い出の中に住む僕の姿。
未奈ちゃんが子供の頃、僕を拾い、白くて雪のようだからシロユキという名前をくれた。うん、わりとカッコいい。
なのに、いつもユキポン、ユキポンって呼ぶんだ。
せっかくシロユキってカッコいい名前つけてくれたのに……。もう。
でも単純な未奈ちゃんらしいや。
それに笑顔でユキポン、ユキポンって呼んでくれたし。ま、その呼び方も満更ではないかな。彼女に育てられ、ユキポン、いやシロユキとして12年生きた僕。今は天寿を全うし、彼女の心の奥、思い出のかけらとして住んでいる。
それから5年。
未奈ちゃんも大人になり色んな事があった。うん、うん。僕は、彼女の心の奥底で彼女と同じように、喜び、楽しみ、怒り、悲しみ、いろんな感情を共に感じ、一緒に過ごしている。
そして、ここ1ケ月。
未奈ちゃんの中で悲しみの雨が降り続いていた。窓の外の雨脚は幾分弱くなったものの、暗く渦巻く雨雲が不安にさせる。
「行こう」
僕はそう呟いて、窓辺から飛びのいた。
「待てよユキポン。ここを出て行ったら、もう戻って来れなくなるかもしれないぜ」
首筋、可愛い丸い星柄模様をあしらった首輪がチクリと痛む。
「どうせ何も考えてないんだろ?」
「……」
「図星だろ。全く、だからお前はいつまでもユキポンなんだよ」
「にゃー!お星の首輪のくせに。お前に言われたくないにゃー」
「にゃー、じゃねえよ。まったく。この高貴な輝く星の首輪に対してなんて口の利き方だよ」
首輪のどこに口があるのか分からなかったけど、未奈ちゃん手作りのこの首輪、いつからか勝手に喋り出すようになっていた。
しかも偉そうに。
しかも親父声。
「おい、分かってるのか? ユキポンは思い出の住民だ。その思い出を壊すと、もう戻れなくなるかもしれないんだぜ」
「それでもいいにゃ、僕に何かできるにゃら」
「待てよ。何か考えとかあるのかよ?」
「……
…………
………………
……………………にゃい!」
言い切った。
「はぁ?」
「それでもいいにゃ、いくにゃ」
「いや、待てよ。だから勝手に出て行ってイメージが壊れると消えるって言ってんだろ。消えるって、お前、消えるってことで。もう一回死ぬのと同じだぞ」
「……」
「だからお前はユキポンだっての。な、よく考えろ。呼ばれるまでここにいろって。そのうちまた呼ばれるかもしれないだろ」
「うるさい、うるさい、うるさいにゃー。ぼくは行く!」
「消えたらどうすんだよ!!」
「フーー、フーー、知らないにゃ」
「俺はどうすんだよ」
「消えるのは僕だけでいいにゃ」
「いや、ちょと待て。落ち着けユキポン。俺、首輪。ユキポンが消えたら、俺、動けない。っていうか首にハマってない首輪って何?」
「……知らにゃい」
「いや、知らにゃいじゃないから。俺の命もかかってんだからな」
「……知らにゃい」
「おーーーーい」
……僕は行くよ!! 行かなきゃ。未奈ちゃんのために。
窓の外は相変わらず暗い。
立ち込めた黒い雲が時間の感覚を狂わせる。
けど、もうすぐ逢魔が時。
僕は行く。
また、雨が激しく降り出した。
何回目の大雨だろうか。
どれぐらい雨の日が続いているだろうか。
やまない雨に心が痛む。
僕は窓辺に座り、外をじっと見て考えていた。
僕に何ができるだろうか? と。
「なに もの思いにふけってんだよ」
ふいに首元で声がする。
「うるさいにゃー」
窓に反射する自分の姿。
白い毛並みに黄色い目。
小さな白猫の姿。
これが僕の姿。
倉辻未奈、彼女の思い出の中に住む僕の姿。
未奈ちゃんが子供の頃、僕を拾い、白くて雪のようだからシロユキという名前をくれた。うん、わりとカッコいい。
なのに、いつもユキポン、ユキポンって呼ぶんだ。
せっかくシロユキってカッコいい名前つけてくれたのに……。もう。
でも単純な未奈ちゃんらしいや。
それに笑顔でユキポン、ユキポンって呼んでくれたし。ま、その呼び方も満更ではないかな。彼女に育てられ、ユキポン、いやシロユキとして12年生きた僕。今は天寿を全うし、彼女の心の奥、思い出のかけらとして住んでいる。
それから5年。
未奈ちゃんも大人になり色んな事があった。うん、うん。僕は、彼女の心の奥底で彼女と同じように、喜び、楽しみ、怒り、悲しみ、いろんな感情を共に感じ、一緒に過ごしている。
そして、ここ1ケ月。
未奈ちゃんの中で悲しみの雨が降り続いていた。窓の外の雨脚は幾分弱くなったものの、暗く渦巻く雨雲が不安にさせる。
「行こう」
僕はそう呟いて、窓辺から飛びのいた。
「待てよユキポン。ここを出て行ったら、もう戻って来れなくなるかもしれないぜ」
首筋、可愛い丸い星柄模様をあしらった首輪がチクリと痛む。
「どうせ何も考えてないんだろ?」
「……」
「図星だろ。全く、だからお前はいつまでもユキポンなんだよ」
「にゃー!お星の首輪のくせに。お前に言われたくないにゃー」
「にゃー、じゃねえよ。まったく。この高貴な輝く星の首輪に対してなんて口の利き方だよ」
首輪のどこに口があるのか分からなかったけど、未奈ちゃん手作りのこの首輪、いつからか勝手に喋り出すようになっていた。
しかも偉そうに。
しかも親父声。
「おい、分かってるのか? ユキポンは思い出の住民だ。その思い出を壊すと、もう戻れなくなるかもしれないんだぜ」
「それでもいいにゃ、僕に何かできるにゃら」
「待てよ。何か考えとかあるのかよ?」
「……
…………
………………
……………………にゃい!」
言い切った。
「はぁ?」
「それでもいいにゃ、いくにゃ」
「いや、待てよ。だから勝手に出て行ってイメージが壊れると消えるって言ってんだろ。消えるって、お前、消えるってことで。もう一回死ぬのと同じだぞ」
「……」
「だからお前はユキポンだっての。な、よく考えろ。呼ばれるまでここにいろって。そのうちまた呼ばれるかもしれないだろ」
「うるさい、うるさい、うるさいにゃー。ぼくは行く!」
「消えたらどうすんだよ!!」
「フーー、フーー、知らないにゃ」
「俺はどうすんだよ」
「消えるのは僕だけでいいにゃ」
「いや、ちょと待て。落ち着けユキポン。俺、首輪。ユキポンが消えたら、俺、動けない。っていうか首にハマってない首輪って何?」
「……知らにゃい」
「いや、知らにゃいじゃないから。俺の命もかかってんだからな」
「……知らにゃい」
「おーーーーい」
……僕は行くよ!! 行かなきゃ。未奈ちゃんのために。
窓の外は相変わらず暗い。
立ち込めた黒い雲が時間の感覚を狂わせる。
けど、もうすぐ逢魔が時。
僕は行く。