「そんなわけないじゃん」「どうしてわかったの」――どっちの言葉を言うのが正解?

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 中間テストが終わって、なんだかんだとしていれば、もう『そろそろ期末テスト』な時期だ。
 梅雨も明けて夏らしくなってきた――生徒達の制服も、学ランや長袖から白い半袖へ。まだセミが鳴くにはちょっとだけ早い季節。

「あっつぅ」

 下敷きをペラペラ団扇かわりに、ノバラは下校時刻になってもまだ青い空を見上げていた。日が長い。暑さも増して、登下校の歩きがしんどいシーズンだ。
「なんかさぁ、毎年『今年は冷夏になる』とか言っといてガッツリ猛暑じゃない?」
「冷夏だとお米が不作になるからな、暑いのもお米の為と思って耐えるしかないさ」
 サダヒロはお店に行くともらえたりする本当の団扇で顔を扇いでいる。もう片方の手には割って分けるタイプのチューブアイス。最近はよくドーナツの代わりにアイスをノバラと半分こしていた。
 手や首や額をひんやり冷やしつつ、ノバラはコーヒー牛乳味の氷菓を口に含む。
「お米の為かあ……背に腹は代えらんないもんね……ていうか七月でこの暑さって、八月どうなんの? 死ぬの?」
「八月は夏休みだ幸いにして……」
「ほんとだ……ラッキー……」
 うだうだしつつ、いつもの駅だ。ホームのゴミ箱に、食べ終わったなまぬるいチュープを捨てて。
「日曜、何時に集合にする?」
 サダヒロが問う。「んー」とノバラは少し考えてから。
「九時四五分ぐらいにいつもの駅の改札で」
「わかった」
 今日は金曜日だった。そして日曜日、二人は一緒に勉強をすることにしていた。

(……今度はいい点とれそう)
 自宅の自室にただいま。ノバラはドアを閉め、鞄を置いて、制服から部屋着になるべく手をかける。
 中間テストの件があったから、両親からは「次はこんな点数取らないようにちゃんと勉強しなさいよ」と言われている。なので「まあ見ててよ。今度はすっごい良い点数とるから」と自分を奮い立たせる為にも啖呵を切った。
 放課後の時間をサダヒロとの勉強に注力するようになってから、おかげさまで授業に追い付けているし、今のところつまずきも感じていない。いい感じだ。
 それにもう一つ、「いい感じ」なことがある。ここ最近、感情が昂って竜になることが起きていないのだ。勉強に追い付けているという安心感、サダヒロという友人として大きな存在、それがノバラを支えているからだろうか。
 それから、「サダヒロくんとつきあってるの?」にも「友達だから」を延々と返し続けて――その甲斐あってか、最近はもう「つきあってるの?」と聞かれることはほぼないと言ってもよくなった。まあ、噂好きの子なんかは目を光らせているようだが、もうノバラはそういった目にいちいち気を尖らせるのは止めようと決めたのだ。

 そんな日々の中――サダヒロを見ていて、分かったことがある。
 自分のしたいことに素直になること。それが結局、一番心が落ち着くことだった。

(冷静に、落ち着いて、ちゃんとしなきゃ、甘えちゃダメ……そんなふうに自分を『すべき』で抑えつけすぎてたのかも)
 だから、余計に気が立っていたのかもしれない。
 というわけで、だ。
(……思い切って買っちゃったよね)
 着替えの済んだノバラは、ちらりと洋服タンスを開けてみる。そこにはデニムのスキニーが納められていた。
 ノバラの私服はいつもスカートだ。ズボンは、尻尾が生えたら破れてしまうから。変身の制御が今より下手糞だった幼少期からずっとスカートで……だからこそ、ノバラにとってズボンとは憧れの象徴だった。
 髪が短いのも似たような理由だ。髪が長いとヘアアレンジしたくなったり、かわいいアクセサリーを着けたくなる。だが竜になり、髪が全てたてがみへと変貌すれば、髪飾りなんて全部とれてしまう。ヘアゴムが千切れたり、アクセサリーが壊れたりもする。だから、そういうオシャレをしたい気持ちが湧かないように、ノバラは髪を短く切り揃えていたのだ。
 ……だけど最近は、ちょっと伸ばそうかな、なんて思っているし、ヘアピンも買ってしまった。シルバーカラーの、連なった小さな花モチーフ。花の真ん中にはマゼンタピンクのビーズが埋め込まれ、きらきらしていた。一目惚れだった。今までだったら、「でも竜に変身したら取れちゃうし壊れるかもだし」で諦めていただろうに。
「竜になってしまったらどうしよう」のせいで抑圧されていたけれど、本当はノバラは同年代の女の子のようにオシャレを謳歌したかった。ずっと、ずっと。
(へへ……楽しみだな)
 オシャレができる日。思い描くと、わくわくする。……もちろん、ちゃんと勉強もするけれど。